シズヲ

不知火檢校のシズヲのレビュー・感想・評価

不知火檢校(1960年製作の映画)
4.9
カツシン演じる座頭市のルーツと聞いていたので前々から興味があったけど、納得の傑作だった。強烈なまでのピカレスク時代劇で、『座頭市物語』とはまた違った意味で衝撃的。というかトータルで言えば座頭市より面白いかもしれない。本作の主人公・杉の市の時点で既に後のいっつぁんに通ずる演技を見せているから凄い。

尺は90分ほどで短めだけど、そのおかげでテンポの良さが尋常じゃない。本当にさくさくと進むし、話の構成も無駄なく収まっているから舌を巻く。その上で主人公のルーツや悪事、伏線などが端的に解りやすく描かれているのが素晴らしい。あと個人的には三味線を弾く場面が絵面の美しさも相俟って印象的。

何よりも主役となる杉の市のキャラクター造形が秀逸。社会的弱者であることをバネにして成り上がっていく、活力に溢れた化け物が描かれている。率直に言うと清々しい程の外道。普段こそ温厚で腰が低いけど悪知恵に長け、息を吐くように悪事を働いてのける。その非道は本当に凄まじくて、もはや薄気味悪さすら覚えてしまう。だけど妙に人間臭くて、時折見せる振る舞いは滑稽にすら感じる。周囲から陰でめくらと蔑まれる姿からは何とも言えぬ孤独も滲み出る。そんな人物像がカツシンの演技とがっちり噛み合ってて、とんでもないキャラクターを生み出してるんだよね。間違いなくこの映画の魅力の半分を担っている。

ラストの台詞がカットされたらしいのが本当に惜しい。確かに相当刺激的な台詞だけど、『不知火検校』のテーマと杉の市の生き様をこれ以上になく的確に表していただけあって勿体無い。
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