Jeffrey

雪之丞変化のJeffreyのレビュー・感想・評価

雪之丞変化(1963年製作の映画)
4.5
「雪之丞変化」

〜最初に一言、この映画は古典に徹するところから新しいものを引き出した極めて異色的な時代劇映画で、娯楽と芸術をうまく取り込めた市川崑初の時代劇映画にして、彼の監督人生でも最高水準のー本であり、市川流時代劇かつ豊麗で彼の美学を結晶化したリメイクとしては文句のつけどころがないほどの画期的映像の連続だ〜

冒頭、市村座の舞台に舞う上方歌舞伎の花形女形。川口屋、女賊のお初、江戸下り、市村座、夜道、米騒動、雇われた刺客、復讐の理由、闇太郎、刀。今、陰謀の魔の手が復讐の秘剣が襲う…本作は昭和十年朝日新聞連載三上於菟吉同名の原作を巨匠市川崑が長谷川一夫を主演にした傑作時代劇で、一九五九年に監督した仇討ちもの映画である。この度、四Kデジタル修復版BDにて再鑑賞したがやはり素晴らしい。和田夏十がシナリオ化し、キャストが豪華すぎてやばい。 山本富士子、勝新太郎、若尾文子、船越英二、市川雷蔵、真城千都世、尾上栄五郎…とまぁ凄い。一昔前に芸人でもあり映画作家でもある北野武が映画は市川崑の映画を見てれば充分だ的な発言をしていたのを思い出したが、本作を見るとまさにそうである。これでオールジャンルを監督したと思ってしまうほど多彩な才能を発揮している。

すでに長谷川一夫は衣笠貞之助監督の 雪之丞変化第一篇、第二篇、解決篇と出演しており、これで彼は一躍スターダムにのし上がった役者である。そんな彼を市川崑がリメイクして、彼の魅力を改めて引き出そうと一人二役で華やかさを写したのが本作であり、オリジナルの大ヒットによって彼の黄金時代を築く出世作を改めて映像化して彼を復活させた記念碑的映画でもある。当時この作品が上映するのが正月だったため大映が総力を上げたと言う話もある。本作の脚本はオリジナルの衣笠貞之助が脚本を務めている。今思えば市川崑にとって初めてになる時代劇だったのかも知れない…。

それにしても本作を撮りあげる前に「私は二歳」を撮影しているのを見ると、ここまで両極端な演出の映画を撮るのも凄いと思う。企画段階で違う映画を撮るっていう状態ってどんなものなのだろう…。しかし衣笠貞之助の作品から二十七年ぶりになる長谷川が改めて二十代の設定で演じたのは凄いとしか言いようがない。彼は当時五十四歳である。技術的にフォローバックしている市川崑にも拍手喝采だ。それと新春に競う異色時代劇と言えば、今井正監督の「武士道残酷物語」や井上和男監督の「無宿人別帳」岡本喜八監督の「戦国野郎」などかなり素晴らしい作品があった時代だ。長谷川を青年女形(おやま)に化けさせたのは本当に凄いの一言だ。市川崑は化け物だ。


さて、物語は江戸で人気の上方歌舞伎の女形、中村雪之丞は長崎で両親を死に追いやった土部三斎とその一派、川口屋、広海屋への復讐を師匠の菊之丞に誓っていた。手初めに三斎の娘、浪路に近づいた雪之丞は、義賊、闇太郎の助けも借りて、次第に三斎一派を追い詰めていく…と簡単に説明するとこんな感じで、美男で謳われた大スター長谷川一夫の往年の大ヒット映画を、市川崑が長谷川一夫三百本記念作品として大映オールスターでリメイクしたもので、闇の中を飛ぶ白い捕り縄、ジャズ、豪華な映像とモダンなセンスに貫かれた心遊びいっぱいのエンターテイメント大作として人気高い娯楽時代劇作風である。こんなに刀の美しさをとらえた映像もなく、近年でも人気な人が死んで血が大量に流れるような時代劇とは違い、克明に画面に積み重ねを丁寧にした時代劇である。これは前期の作品とも違い、旧来の時代劇とも違い、時代劇の一典型を成し遂げている。繰り返すが、市川崑と言う映画作家は化け物である。


いゃ〜、カルト的傑作だ。とんでもなく映像は美しくて物語も非常に面白く娯楽に満ちた時代劇だ。これなら若い子たちにも十分に楽しめるとお勧めできる作風だ。冒頭から圧倒的な雪之丞の歌舞伎が脳裏に焼きつく。雪が降り、三味線の音が流れて冬化粧される映像の変わり目がたまらなくかっこいい。そこから彼の復讐標的が顔を現し、彼の口から名前が話される。そんで浪路を演じる若尾文子の美しい顔のクローズアップが現れてファンである私は撃沈する。そんでオープニングで雪之丞に対して周りが噂をしているときの画面構図も凝っていてすばらしい。何かと言うと左にキャストを集めて会話させ、右に人間をズームで画面が衣服で黒くなり、そこからスタッフとキャストの文字が現れる演出だ。

そんで闇の中で雪之丞を襲う忍者のような格好した兄弟弟子と刀で戦うシーンもかっこよすぎる。そこに長谷川二役に扮する闇太郎が助けに来る所もかっこいい。そんで瓦に立っている市川雷蔵扮する昼太郎の登場の仕方もクール。特にそこから流れるジャズがなんとも映像に合っていて和と西の融合である。んで、土部三斎扮する中村鴈治郎の顔芸も凄い。それからお初を演じた山本富士子の男口調で活発さも印象に残る芝居だ。ここまでで黒を基調にしたカラーフィルムで美しい映像も稀である。アートシアターギルドの松本俊夫監督がモノクロ映画で撮影した「修羅」も黒を基調にしていたが、あれは夜だけを舞台にした作品かつ白黒だったため、非常に画期的に効果が出ていたが、本作はあくまでもカラーフィルムであり、それなりの効果を模索しつつ描き切った力作だ。

復讐を遂げた後の雪之丞の歌舞伎がカッコ良すぎて痺れる。ラストの映像も印象的だ。さて、この傑作が生まれた過程を少しばかり話すと、大映の社長室で監督と永田社長が俳優論を話していたところ、市川が長谷川一夫と言う巨大なスターを今の大映が使いきれてないのは社長の責任ですよと言ったところ、社長が急に、そんなこと言うんだったらお前、長谷川君の企画を考えろって言ったらしく、その場で社長が長谷川に電話して長谷川一夫が返事をしてくれたと言うことで映画化が決まったそうで、その決まるまでの時間が三十分程度だったらしい。この映画を見ると市川崑と言う作家は、ものすごく風変わりな人だなと思う。同じような作品を取ったりしないし、物語の評価が天と地の差であるのも面白い。駄作を作ると思いきや大傑作まで作ってしまう。例えば「処刑の部屋」等は個人的には駄作に感じるのだが、「炎上」等は傑作に感じる。そういった差が激しい映画を作る監督だなと改めて思った。「穴」のようなコメディーをとれば、日本は人で埋め尽くされていると言う題材を撮った「満員電車」や子供の気持ちを題材にした「私は二歳」など、につかないものばかり撮ったりもする。

この作品は当時のプレスシートに作家の三島由紀夫や映画評論家の飯島正などが大絶賛していた。
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