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君たちはまだ長いトンネルの中のodyssのレビュー・感想・評価

1.5
【MMT理論信奉者のトンデモ映画】

可愛い女高生が経済理論で教師や財務省出身の代議士をバッタバッタとなぎ倒す、という筋書きの映画です。

趣向としては面白いのですが、作中の経済理論はかなりあやしげです。
いわゆるMMT理論、つまり政府の財政赤字は無視して財政出動を大幅に増やせば消費が回復して日本経済は回復するし万事がうまく回る、という単純な理論です。

突っ込みどころ満載なのですが、一つだけ指摘しておくと、なぜ現代日本の財政は大赤字なのか、この映画は触れていません。都合が悪いからでしょうね。

つまり、バブル崩壊直後、日本は大幅な財政出動を行っていたのです。アメリカの差し金でです。
アメリカの経済学は、財政出動を行えば国民の消費が増える、そうすれば経済状況が回復するし政府の税収もそれによって上がるから、一時的な財政赤字もやがては消える・・・と日本に教えたのです。日本政府はそれを採用したのでした。

結果はどうだったか。アメリカの経済学は見事にハズレました。財政出動によっても日本の消費は回復せず、税収も上がらず、結果、政府の大赤字だけが残ったのです。

ここから何が分かるでしょうか? 経済学は自然科学ではなく、「これで絶対」はないということです。人間を対象にする学問は、人間の反応が時代により地域により異なることを計算に入れておかなければならない。

この映画に即して言えば、「財政出動を大幅に増やせば消費は伸びる」理論は、間違いだったということが歴史的事実によって裏づけられている、ということです。

アメリカ発の「新自由主義」理論だってそうです。政府は小さなほうが良くて、なるべく規制を少なくして民間企業に勝手にやらせておけば、一時的には混乱が起こってもやがて全体の均衡がとれてうまく回る――これが新自由主義理論です。

これが見事にハズレたことは、新自由主義によりアメリカばかりか世界各地で格差拡大が問題視されるようになったことからも明らかです。日本も小泉政権時代(竹中平蔵が経済担当相として新自由主義を煽った)にこれに乗ってしまい、非正規雇用を拡大したので、ワーキングプアが増えて結婚もできない、少子化進行、という事態になりました。

また、格差拡大やワーキングプアの増大は、社会の秩序を悪化させ、それに対応するために「大きな政府」が必要になるという矛盾を招来するのです。「小さな政府」を金科玉条にした経済理論は、大きな政府を生み出す――経済理論とは、その程度のシロモノなのです。

日本の映画人は、もっと勉強してからこの手の映画を作って欲しい。
別の言い方をすれば、日本映画人の知性の低さを見抜けるような知性の高さを、観客は持たなければいけません。
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