SSDD

ザリガニの鳴くところのSSDDのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
4.4
■概要
湿地の娘と呼ばれ蔑まれた一人の女性。一人湿地にある家に住み、野生児のように孤独に自然を生きる。
ある日、殺人の嫌疑がかけられる…。

■感想(ネタバレなし)
沼とは異なり光と水が織りなす美しい自然の湿地帯が映し出される。そこに美しい言葉が詩のように乗り始まる。
自然豊かな湿地の中で、一人の成人男性の遺体が見つかり、物語が始まる。

この作品についてネタバレなしでは語れない。このあらすじだけで余計な先入観を他に与えたくない。

ベストセラー小説が原作で素晴らしい映像化です。是非興味を持たれた方は観てください。











■感想(ネタバレあり)
知的で魅力的な人々と、一人の聡明で過酷な人生を送る女性の話。

・与えられる先入観
"幼少から家族に捨てられ、学校にも行かず湿地に一人暮らす女性。"

これを聞くと"どんな女性なのか?"、"知性はどの程度なのか?読み書きができるのか?"と観客側も偏見を持たせられ、この先入観こそこの映画を面白くしている。

法廷サスペンスでありながら、解き明かすのは事件ではなく彼女の半生。
どうやって飲み食いしてきたか、その知性はどうやって学んだのか、なぜ一人で住んでいるのかなどの好奇心からどんどん引き込まれて行く。

・魅力的で知性的な交友関係と差別的な街の人々
唯一手を差し伸べたのは雑貨屋夫婦であり、幼い子供の頃から見守ってきた。
必要なものを促しながら与え、出来ることをしたあげてきた夫婦は素晴らしい。
そして子供の頃にも出会っていた弁護士の紳士。大学に行き成功を目指す読み書きを教えた青年。など魅力的な人々。
それに対するは偏見とゴシップに溢れた人々と、街と関わるなと湿地に縛り付け暴力を振るう父親に、街で疎まれた二世のドラ息子。という対比。

・偏見を持っていたのは誰なのか?
湿地の娘と称して差別してきた彼女を知性的だと理解し、無実を訴える法廷での紳士的で聡明な弁護士の言葉が素晴らしい。
しかし彼もまた殺人犯を偏見を持って擁護してしまったのである。
偏りなく人を見ることなんてできない。合う合わないもあるし同じことを違う人物がするだけで嫌悪したり、賛美したりするものだ。

・報復の矛先
母の辛かった生活を理解したのは、ドラ息子との死闘を繰り広げてから。また自衛できる保証はないし、頼る相手もいない。怯えて暮らす日々を自分も送るのか?
母を殴った父に何もできなかったあの頃の想い、自分を貶めた男。父と重ねた男に対して彼女は完全犯罪で事故死に見せかけて殺害し、暴力で意のままとしようとする男性への報復をやり遂げた。

法廷で勝った時点でどのタイミングで真実わかるのか楽しみにしていたが、最後の明かされ方も含めて素晴らしかった。

・総評
ヒューマンドラマとしての完成度の高さ、法廷サスペンスとしての面白さ、自然の美しさや、言葉の紡ぎ方など非常に素晴らしい作品でした。
最後に感動だけでは終わらせないラストも含めて、いい作品でした。
SSDD

SSDD