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天使の涙 4Kレストア版のarchのレビュー・感想・評価

天使の涙 4Kレストア版(1995年製作の映画)
5.0
これまで観てきたウォン・カーウァイ作品の中で一番好きな作品。
重なる配役や「期限」というキーワード、特に二組の男女の話を主軸に置いているところなどが『恋する惑星』に近しいテイストを帯びさせているが、本作は世界的に認知されている"香港映画"のようなノワールさを兼ね備えているのが違う。90年代にウォン・カーウァイ自身がアート性の高い映画で世界を席巻し、香港=アクションの構図を破壊した存在であることを考えると面白い。
そんな香港映画の源流にウォン・カーウァイの変わらない斬新な映像感と普遍的ともいえる恋愛や人間関係の苦悩を美しく、人生の大事として描き出す。

特に本作は躍動感が素晴らしい。それはガンアクションに限った話ではなく、金城武という男の"動き"が凄まじいのだ。彼は作中では独白のみで語り、言葉を口にすることはない。しかしその代わりと言わんばかりに自らの意志を表情筋や仕草で表現する。金城武のチャーミングさがその動きを介して伝わり、彼の悲恋に対する楽観主義が暗雲立ち込めるノワールに光をもたらしてくれる。ウォン・カーウァイが今回持ち込んだ香港ノワールの要素は彼らの悲恋の表象に過ぎない、だからこそ金城武演じるモウが必要なのだ。
ちなみに『恋する惑星』と同名同役のモウはその「期限」に対する考えが異なるように描かれている。

モウのバイクも躍動感あるアクションが映画にもたらす。ウォン・カーウァイ作品の中でも最高速度の躍動だと言っていいだろう。2046に向かう列車のように、未来を暗示し、されどトンネルという「場所」と「誰」が一緒に乗っているのかがフォーカスされているところは使い方が異なる部分。ここにもこれまでの作品以上の楽観的で希望に満ちたテイストが反映されているように思う。

『恋する惑星』では完全な並置による対比で紡がれた運命的な出会いの物語が、本作は複雑に交錯する。それでしか生まれないカタルシス、その一点が彼のどの作品よりも「出会いの可能性」を称えている。ウォン・カーウァイベスト。
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