チッコーネ

ソウルの春のチッコーネのレビュー・感想・評価

ソウルの春(2023年製作の映画)
3.0
『KCIA 南山の部長たち』の完全な後日譚となっており、独裁者の死によって光の差し込んだ大韓民国へ、より苛烈な圧政が訪れる過程を詳細に描く。

権力の味を知らぬ私のような人間に、既得利権の継承と増益を目論む貪婪を完全に理解することはできない…、鑑賞中は史実として、また一種の教養として「未来の独裁者と周囲の日和見」が示す行動パターンを確認し続けることになった。

軍内に私組織を結成した者たちの密談場面は照明が暗く、中には当事者が意図的に電灯を消す場面も。
彼らの凶暴な算段を表現するに充分であったほか、全斗煥の薄毛を模したファン・ジョンミンを悪魔の化身のように映す撮影も、散見される。

本作はマ・ドンソク主演の『犯罪都市3』とチェ・ミンシク主演の『破墓』の間に公開された大ヒット作で、3作とも本国での観客動員が1,000万人を超えている。
激動の時代を描いたヒット作としては先述の『KCIA』のほか『タクシー運転手』、『光州5・18』、『1987、ある闘いの真実』があるが、本作はそのいずれをも上回る好成績を収めたのだ。
民主化30周年の節目に制作された『タクシー運転手』や『1987~』に比べ地味な印象で、なおかつ受難の到来を告げるバッド・エンドにも関わらず、なぜそれほどヒットしたのだろう。
他作に比べお涙頂戴演出がかなり抑制されているのは特徴的だったが…、制作や公開のタイミングに依るところも、大きいのかもしれない。
いずれにせよ韓国の観衆にとって「軍事政権 VS 民主主義」の近代史劇大作は「鉄板」。
個人的には本作の続編として「全斗煥の目から見た軍事政権の崩壊」を描く作品が観たくなった(『1987~』には、当時まだ存命だった全斗煥キャラクターが出てこなかったので…)。

なお私は本作を、Filmarks開催の試写会で、一般公開より早く鑑賞できた。
上映後のトークショウで聞いた崔盛旭氏の、時代回想エピソードも興味深かったので、会全体に感謝!