ワンコ

⼤⼈は判ってくれない 4Kデジタルリマスター版のワンコのレビュー・感想・評価

5.0
【バルザック】

この作品でちょいちょい出てくる”バルザック”については、当時の作家仲間の間では非常に評価は高かったが、結構飲んだくれで遊び人だったため、生前の社会的な評価は決して高くなかった。
ただ、バルザックの社会を見つめる目と、人間の心の内を繊細に豊かに表現するところは、この「大人は判ってくれない」にも共通するところで、トリュフォーが目指すところでもあったのだろうと思う。

「大人は判ってくれない」は、ヌーヴェル・ヴァーグに大きな影響を与えたバザンが亡くなった翌年に公開された作品だ。

「大人は判ってくれない」は、アントワーヌ・ドワネルの5作からなる物語の第1作目で、角川シネマのフランソワ・トリュフォー生誕90年を記念する”フランソワ・トリュフォーの冒険”の中のリバイバル上映で、最初の土曜日は、この5作が順に一挙上映になるのを見て、急ぎネット予約をした。なかなか、粋な計らいだと思った。

ただ、さすがに短編一つを含む5作全部観るのは疲れたけど笑

これは、小説で言ったら、フランソワ・トリュフォーの私小説のような感じだ。
これを観た人たちも、それぞれ、自分の嫌なところも、良さそうなところ(僕にはあまりなかったけど)も、重なるところがあるんじゃないだろうか。

僕はありました。
それで、そこがなんとも痛し痒(かゆ)しというか、やれやれという感じで、この作品に引き込まれる。

この自伝的作品「大人は判ってくれない」のアントワーヌは、トリュフォーのことなのだけれども、境遇は可哀想に思えるし、母親も母親だ!とか、なんだあの父親は!とか、ダメが学校だ!なんて腹が立つところもあるが、なんかとても滑稽なのだ。

それは、アントワーヌの思慮が浅いと云うか、楽観的なところから来ているのかもしれないし、この作品が娯楽作品的な面も持ち合させているところが理由なのだろうと思う。

僕は、小学生の時、父に夜遅くに、“出て行け!!”と言われ、実際に出て行って、絶対に探しに来ると予想をして、家の近くに路駐していた軽トラックの陰に、それもタイヤの陰で下から見られても分らないように隠れ、父と母が探しに出てきたところで居場所を変え、両親が僕は近所にいないと勘違いをして、車で(たぶん)親戚や祖母の家に出かけたのを見て、近所なんだから歩いていけよ!とか考えながら、両親とは反対方向に走って逃げて、ちょっとした家出は成功した。

まあ、その後、複数の叔父叔母を巻き込んで、大変なことになって、結局は見つかって、こっぴどく怒られたけれども、僕は、出て行けって言われたから出て行ったのだと祖母に主張して、両親が祖母に、”こんな夜遅くに、あなた達は何をしているの!?”と結構嗜められているのを見て、シメシメとちょっとほくそ笑んだ。

僕は、”大人は判ってくれない”なんて考えてはいなかったが、あれこれ衝動が抑えられないことは多々あった。

昨年夏に公開になった「子供はわかってあげない」のタイトルは、内容は関係ないけれども、この作品を逆パクリしたものだと思っている。

なんか、「大人は判ってくれない」は、何度も観ているけれども、飽きないで見れる好きな作品だ。
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