垂直落下式サミング

フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

5.0
怪獣映画としては初の日米合作。
日独伊三国同盟によって日本に持ち込まれたフランケンシュタインの怪物の心臓が広島の病院で研究されていたところに原爆が投下され、これにより、さらなる怪物が生まれれしまったという二次創作的な発想で描かれている。このような自由な切り口で語ることができるのは、自分達の映画技術に自信がある証拠だ。
見所としては、超リアルな原爆投下のシーン。映画の本題とはそれほど関係ないはずだが、きっと本当にあんな熱風が街を焼き尽くし、禍々しいキノコ雲が上がったのだろうと思わせるような鮮烈さだ。やはり本多&円谷コンビが反戦反核の作家であることがわかる。
1931年版の『フランケンシュタイン』の悲劇性や哀感を踏襲し、優しくしてくれた女性に別れを告げに来る一連のシーンなどの演出にそれがよく表れていて、怪物をめぐる人間模様にも焦点をあて、実に丁寧に描いている。彼は怪物なのか、それとも人間なのか、怪物だとしたら権利はないのか、という問い掛けをするドラマ部分は、ウルトラQに出てくる「変身」に近い。
怪物が光を怖がる理由も泣かせるし、心ない人間たちからライトで照らしつけられたことで不安をつのらせて凶暴化してゆく悲劇性を、彼に一言もセリフを発させずに、すべてを言葉に頼らない映像上の表現で見せてしまうのは、『猿の惑星創世記』のシーザーに通ずるような巧みな心情演出である。
怪獣が比較的小さめの設定でサイズ感はない映画だが、敵として登場する地底怪獣バラゴンは見た目がかわいいのに人を食う獰猛なやつだ。あまり有名な怪獣ではないのだが、それもそのはず、本作と『怪獣総進撃』にチョロっと出た後は、ボディを剥ぎ取られウルトラマンのパゴスやネロンガのベースとして有効活用されている。
しかし、ラストで唐突に大ダコが出てくるとは!このシーンは諸説あり、公開時には違う結末だったのだが、アメリカ側のスポンサーが東宝の大ダコ演出をいたく気に入っていて、どうしても登場させてほしかったのだとか。確かに生物をそのまま使ってしまうのは、ミニチュアの技術が進んだ日本特撮ならではであり、ハリウッドからみれば目から鱗の発想だ。タコなのに目から鱗とはこれ如何に。そんな特異な演出ひとつとっても素晴らしい。60年代の東宝特撮の輝ける作品ひとつである。