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13人の命のambiorixのレビュー・感想・評価

13人の命(2022年製作の映画)
4.1
世間でAmazonオリジナルの映画といえば、つまらん、ハズレが多い、みたいなイメージがしばしば付きまといがちですけど、正統派午後ロー的アクションSF『トゥモロー・ウォー』や、斬新すぎる音響デザインの面でも人間ドラマの面でも非常にハイレベルだった『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』などなど秀作佳作もいくつかあって、個人的にそこまで印象は悪くない。でもって本作『13人の命』によってようやくこのブランドの代表作と呼べる映画が出てきたのかなと思いました。
作中でロシアワールドカップの中継音声がたびたび聞こえてくるので、これはもう4年前の出来事になるんですね、2018年6月、タイ北部はチェンライ県のタムルアン洞窟に閉じ込められた少年とコーチら計13人の救出にあたった勇気あるダイバーやその周辺の人々の活躍(実話!)を描きます。
何にもましてこの作品がえらいなと思うのは、いくら実話ベースとはいえ、フィクションである以上は映画的なウソや映画的なフックを盛り込もうと思えば好きなだけ盛り込めたにもかかわらず、そういう操作をほとんどしないところで、本編を暴力的に要約するならば、ダイバーが洞窟の最奥部に行って少年たちを見つけて入り口まで帰ってくるだけのお話をリアリズム寄りの筆致でもって淡々と描いているだけなのに、もっと言うとこの13人+関係者が最終的にどうなるのかをあらかじめすべて知っているはずなのに、これがスリラー映画として抜群に面白い。ダイバーが水没した狭い通路を潜り抜けるシーンのたびに手に汗握り、少年たちが一人ずつ洞窟の入り口に運び出されるたびに思わず快哉を叫んでしまうわけです。凡百の娯楽映画とは真逆の文法を使って極上の娯楽映画を生み出してみせるこの辺の手際は、あんまり好きな監督ではないですけどロン・ハワード、やっぱり紛れもない巨匠やで、と感じました(たとえばジェリー・ブラッカイマーあたりが製作に入っていたら、火のないところに無理やり煙を立てていたずらにことを荒立てるなどしてもうちょっとアクションライド的な作りになっていたはず…)。
惜しむらくは前述した『サウンド・オブ・メタル』と同じく、映画館の大スクリーン・大音響でこそポテンシャルが最大限発揮される映画だと思うので、できれば映画館で見てみたかった…。
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