ヒゲペンギン

哭悲/The Sadnessのヒゲペンギンのレビュー・感想・評価

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
4.6
要約すると人の脳天が鈍器で潰されたりする映画からじゃないと摂取できない養分があるということなのですが、「哭悲/THE SADNESS」は暴力描写満載のR18映画なので勧めにくい映画なのですが、「悪魔のいけにえ」などが大好きな自分にとってはすごくいい映画でした。
「哭悲」、平和なのは映画が始まって5分くらいなもんで、そこから爆速で地獄絵図と化し、しかも映画の最後までそのテンションを維持するんだから素晴らしいです。

日常的に通勤で満員電車に乗ってて、電車内での小競り合いというか悪意の応酬とか、そういうものに見慣れてしまっている我々からすると、本作のハイライトのひとつである電車の大殺戮シーンは、冗談みたいな鮮血の量にテンション上がりつつも、とても恐ろしいシーンでもありました。電車で、あなたの隣にいる人が急に刺してくるわけないなんて、どうして信じられる?
あと個人的に好きなのは、剪定鋏とかヘラとかアツアツの揚げ物油とか、「これからこのアイテムを用いて人体を損壊します!」と言わんばかりにちゃんとこれでもかと使用前(正確にいうとバジルを切ったりお餅を切ったりポテトを揚げたり本来の用途でちゃんと使用中)にきっちり写して、観客に「あ~この鋏やヘラでちょん切られたら嫌だなぁ」とか「この煮えたぎる油をぶっかけられたら嫌だなぁ」などと想像豊かにしていると、その後ほどなくちゃんとそうなるので「あぁ…大変なことに…」と気の毒な気持ちになりつつも、でもこういう身近なアイテムが暴力の装置になるの、ホラー映画の醍醐味だと思うんですよね。我々の最悪な妄想をチクチクしてくるの。
映画でチェーンソーが出てくる時、ほぼ95%のくらいの割合で木を切ってないですよねぇ。あと防災用?とかでケースに入ってる斧とかさ、あれ、人のはらわたに叩き込む以外の用途ってあるんですか。
なお、この映画でも消化器の正しい使い方が学べます。

暴力に構造と理由を見出したい我々を嘲笑うように、ただ本能と結びついただけだから悪意と暴力が行使される。なんか、みんな、いろんなことに理由や裏設定を見出して考察したがるじゃないですか。そんなんありませんよっていう誠実さ。人間の本質がむき出しになる恐ろしさというよりも、私は原題の「SADNESS」、悲しみを感じました。ウイルスであっけなく破壊される人間の理性や善良さの脆さへの悲しさです。
絶望と悪意の一本道からぶれることなくラストのまとめ方も一貫していてよかった。低予算でもここまで自由にやれてる映画が観られるというのは幸福だな~と思って、観終わったあとグッタリしつつもすごい満ち足りた気分になりました。