LudovicoMed

哭悲/The SadnessのLudovicoMedのネタバレレビュー・内容・結末

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

《今、話題の台湾発祥トラウマ案件ゾンビ》

流石にゾンビモノの新奇性は出尽くしただろ、もうメタ的に膝カックンした『ゾンビランド』類いしかアイデアできないだろと思われ続け、早何年経ったか?そんな事言って『新感染』の様なコロンブスの卵が発明されたりまだまだ愛され続けるジャンルであるが、もう流石に。とか言ってるうちに今年、どっからともなく「グロい、やりすぎ、トラウマ」との悲鳴の評判溢れる『哭悲 THE SADNESS』が巷でバズっている模様だ。

これはとろけそうな真夏にピッタリなホラーだ。という訳で観てきた。果たして涼めたか?。

キャー怖い!そして大満足、これは噂にたがわぬ狂ったゴア度。
怖い、グロい、大笑いのホラー三拍子が整っていながら、ホラー術に関しては大真面目に卓越した演出と感じる意欲作であった。

とある朝、ベッドでイチャイチャするカップルの様子を描く。微笑ましい日常の一コマ、まるで倦怠期カップルの映画のように親密さを語る尺が費やされ、コレは一般市民目線に特化したパニック映画である事を予感させる。ゾンビジャンルで度々重要視される感染現象の発生〜ゾンビ初登場のパンデミック導入を如何に絶望的に魅せられるか。
本作に関しては、まずここのショックが上出来だからこそ怖く感じれると思い、『哭非』では全編通して俯瞰した状況が遮断され訳わからぬ寄るべなさを保ち続ける。
常にごく平凡な市民目線からしか映画は把握できないため、悪夢を目の当たりにした心理描写がチクチク伝わるのです。
なので、ファーストコンタクトを描く遠目の怪しい老婆の様子〜恋人に肩を叩かれる伝統的ジャンプスケアで不穏にホラーへシフトされる手際を経てレストランの阿鼻叫喚な地獄。ようやく映された老婆の顔は皮膚が膨れ上がり生理的に無理な笑みを浮かべ画面一杯に近づいてくる。

便宜上ゾンビ、ゾンビとさっきから言っていますが、パンデミック導入部を経て明かされる本作のソレはロメロ以降のゾンビ様式にかなり禁じ手な突然変異が施された。単にカニバリズムや走るだけでなく、言葉を発し意思疎通もでき、空気感染する。そして暴力性と性欲が野蛮化した発情アニマルになってしまうのだ。もはや絵面だけだとゾンビとして割り切れぬホロコースト状態で、強姦、皮剥ぎ、リンチ、思いつくウルトラ不快描写を端からやりまくる。
そのあまりの最悪の数々に笑うしかないドン引きを感じるのも確かで、そのバイブスを笑いに昇華する悪ノリを放ってくるのも特徴である。

また、極限の状況下で真価が問われる行動原理もこの手のジャンルの醍醐味だが、離れ離れになった2人のカップルは利他的に手を差し伸べる様子がそれぞれ描かれます。
対して一見利己的なネガティヴキャラが調和を乱しまくる訳だが、たった一度利他的な行動に出ようとする。しかし現実は甘くなく助けてあげたいけど、手を差し伸べられない恐怖として描かれ、それは彼なりの防衛手段として身を守る行動でもある。人間の多面的な行動原理を見せつける事で自分ならどこまで尊厳を保てるものかと、踏襲する器が本作には用意されているのだ。
要は主役2人が一般市民的性質をはみ出さない程度にヒロイックに然とした性格の人達で、その崇高さを野蛮化した民衆(ゾンビも含めば、あの胡散臭い政府連中)が打ち砕きにかかる映画にも見える。絵面だけ見ればやっぱり。からこそ市民目線に世界に絶望するキツさが上手いのだが、後半からは彼女側、むしろ本作の主人公自体が彼女であることが分かることから、女性立場のレイプ恐怖に比重が高められる。
後半部に見る男性的憎悪の気持ち悪さやら、電車からしつこいストーカーやら禁じ手ゾンビだからこそのアイデア手数に秀逸が光っている。
ちょうどストーカーに迫り詰められる際の過呼吸気味の悲鳴演出筆頭に、全体的に悲鳴が不快に感じてくるボリューム効果により地獄絵図を物語る。そして僕が『悪魔のいけにえ』で最も恐ろしいと思える瞬間であるファイナルガールの脱出時の絶叫笑い。あのトランスっぷりを見るに、もはや健全な精神状態には戻れなくなっているのでは、と怖くなる名場面を本作のラストは思い出させる。

総じてゴア芸だけに留まらぬ、実は立派なホラーをタップリ堪能できた。そういう見た目に見せないアホエンディングも含めて。
類似作として日本の『アイアムアヒーロー』が挙げれるんじゃないかと思うが、突き刺さらなかった私にとって本作が代わって叶えてくれた。
加えて三池崇史ぐらいがリメイクできたら超おいしいんだけどなぁ。
LudovicoMed

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