Yoshishun

哭悲/The SadnessのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

"映画史に残る地獄絵図に拍手喝采!"

-真夏のホラー映画ハシゴ 後編-

地元で同じ映画館でまさかの本作と『女神の継承』が同時公開。
これは見逃せない!ということで地獄のハシゴをしてきた。

『女神の継承』がモキュメンタリー形式のオカルトホラーであるのに対し、こちらはゴリッゴリの地獄エログロスプラッターバイオレンススラッシャーホラーとなっている(なんのこっちゃ)。
ある意味こっちが本命だったのだが、期待や前評判に違わぬ本当に地獄映画だった。

ロブ・ジャベス監督はデヴィッド・クローネンバーグ監督作品にオマージュを捧げたというが、自分が感じたのはサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』。めくるめく残酷描写と行き過ぎた残虐性にユーモアが垣間見えるあの作風だが、そのユーモアを完全排除したのが本作に思える。ちなみにクローネンバーグ監督については、『スキャナーズ』オマージュだけわかった。

映画が始まって10分間は、導入部分として平凡なカップルの日常が描かれる。毎朝彼女を駅まで送り届け、その後よく行く飲食店で朝食を摂る。そんなありふれた日常にほのぼのする。しかし、そんな日常パートに徐々に迫る地獄絵図の布石が散りばめられていく。屋上に佇む血まみれの老婆、流行中のウイルスに関するニュース、送迎途中に遭遇した交通事故現場……不穏な空気が漂う。

そして、開始10分後。一気にリミッターが解除される。
皮膚は溶け、血肉飛び散り、眼球は潰れ、刃物でメッタ刺し。腕はあらぬ方向にへし折れ、指チョンパ。血は文字通り噴水の如く激しく溢れだし、残虐に次ぐ残虐のオンパレードに満腹状態。
こうしたグログロ描写は80年代スラッシャー映画や往年の残虐ホラーに愛を捧げているのは間違いないが、一つ一つの残酷描写は新鮮味もあり、新しさと懐かしさを感じさせる。自身では罪悪感を感じ涙を浮かべながらも、考えうる最大の残虐行為を働いてしまったり、平然と言葉を発する感染者の姿はどことなくZQNも彷彿とさせる。

また、ただただ地獄映画を見せたい映画というわけではなく、ちゃんと今の時勢に則ったテーマも描いている点で素晴らしい。本国公開時は2020年2月とまだコロナが本格的に流行する前だったらしいが、パンデミックによる人々の不安や苛立ちは明らかに本作の感染者に反映されているし、コロナよりも政治を重視してしまう社会情勢はまさしく現代日本に通じる。それに加え、直接的なコロナ感染だけでなく、SNS上で度々論争になるワクチン論争等、ほんの僅かな蟠りが世論にも影響を与えかねない暴力の連鎖を引き起こすリアルさが存在している。本作で登場する台湾政府は、公開時における実際の政府とは相反するものだったらしいが、現在はウィズコロナを掲げコロナ対策ではなくコロナとの共存を図ることで国民の反感を買っているとのこと。完全なフィクションとして描かれているはずの政府も現実味を帯び始めている恐ろしさといったら。

ゾンビ映画のお約束も踏襲している点も言及したい。本当に怖く醜いのは人間というのはロメロゾンビ、感染者に意思があり全力疾走もできてしまうのは『28日後』を彷彿とさせ、前述の通り普通に話せる点は『アイアムアヒーロー』。感染者が集団戦法で1人を嫌というほど痛め付けるのもお約束だし、救いの無さすぎるラストもむしろ笑えてくる(ヒロインの境遇を思うと全く笑えないが)。
ただやはり感染経路が有耶無耶にされすぎたり、飛沫感染するという割に衛生面の配慮に欠けていたりと雑な場面も見受けられるのでそこも丁寧に描写してほしかったところ。また、逆にウイルスの解説が長々と続く終盤のシーンもかったるい。
他にも後半になるにつれ残酷描写もパターン化してしまったり、本来映像として見せるべき場面が省略されていたりと段々残酷描写も縮小化されてしまったのは残念。

しかし、やはり全編クライマックスともいうべき疾走感ある絶望の地獄映画としてかなり面白く、エンドロールの突然のメタルサウンドに至るまで全く飽きのこない作品であることは間違いない。最近枯渇しつつある系統の本作が日本で大ヒットしているなは嬉しい限り。生きてる内に何度も見続けたい、最高最悪な地獄映画だった。


なお、『女神の継承』と同様、倫理的に特にアウトなシーンもあるのでご注意を。
幼児関連です。
いや、結局は全編か。



P.S ユーモア全くないとは言ったけど、ビジネスマンのウインクには萌えました。
Yoshishun

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