TS

EO イーオーのTSのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.0
【沈黙するロバ】70点
ーーーーーーーーーーーーーーー
監督:イエジー・スコリモフスキ
製作国:ポーランド/イタリア
ジャンル:ドラマ
収録時間:88分
ーーーーーーーーーーーーーーー
 2023年劇場鑑賞19本目。
 ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』からインスパイアされている作品であり、ロバを主人公とした稀有な映画。ロバのEOから見た人間の禍々しさ、愚かさを淡々と描きます。ロバが主人公ということもあり台詞は少なめ。人間達の会話はもちろんありますが、どことなくロバから聞いたような感覚であり、ある意味「雑音」に聞こえます。撮り方もうまく、アート的な映画とも言えそうです。

 あるサーカス団に飼われていたロバ、EOはある日サーカス団から連れ出されてしまう。そこで会うさまざまな人間たち。EOは何を想うのか。

 今作の中で対照的な存在が馬です。馬は古くから人間に飼い慣らされてきて、極めて優秀な動物として認められてきました。かたやロバは残念ながら馬と比べると能力的に劣る部分も多くあり、人間から少し見下されている印象があります。しかし、EOからするとそんな人間達の偏見などはわかりません。言葉を発せない中、EOは何を想うのか。あらゆる場所を転々としていきますが、安住の場所はない。良かれと思いEOに声をかけてくれる人間も果たして善人なのか。人間の都合の良いように扱われていくEO。最も強烈なのはサッカーチームのシークエンスではないでしょうか。あの攻撃は完全にあてつけであり、EOもたまったものではないでしょう。

 答えはあるようでない。EOが夜道を歩いていく様、赤で点滅する描写が印象的であり、結論は鑑賞者に委ねられます。ただ、もう少し怒濤の展開があるかなと思っていましたので、個人的にはそれほどスコアは上がらず。しかし、動物愛護の観点からみると、考えさせられる映画だと思われます。ロバ、いや動物の視点から見るとこんなにも人間の世界は汚れているのか。人間が地球の絶対的な支配者である限り、この状況は変わらなさそう。そう考えると環境保護などを訴える人間達もその範疇を抜け出していないことになり、どこをとっても人間の身勝手さ、傲慢さが浮き彫りになってきますね。人間は自分も含めて罪深い存在。頷けるところだと思います。

 台詞が少なく、BGMも心地よいのでいろんな意味で少し眠くなってしまうところもあります。そのあたりはご注意を。
TS

TS