rage30

トリとロキタのrage30のネタバレレビュー・内容・結末

トリとロキタ(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

難民としてベルギーへやってきた姉弟の話。

主人公がビザの申請を受けるシーンから、いきなり始まる本作。
説明もなく、唐突な印象を受けるが、映画を見進めると、段々と主人公の置かれた状況が分かってくる。
観客に主体的に理解させていく構造の脚本は、社会の周縁を生きる人々にスポットライトを当てる、映画のテーマとも連動しているのだろう。

主人公のロキタは家族への仕送りの為にベルギーへ来たものの、ビザが取れずに普通の仕事に就けず、裏社会の仕事に従事している。
家族の為に外国へ出稼ぎに出る…それ自体は素晴らしい事だと思うのだが、麻薬の運び屋という犯罪に手を染めている事にはモヤモヤしてしまった。
この描写だけ見ると、移民=犯罪という偏見を強化してしまう危険もありかねない。
せめて、ロキタが就職出来ずに追い詰められていくシーンがあれば、まだ同情出来たと思うのだが…。

中盤になると、ロキタは麻薬の製造工場で働かせられる事になる。
この場面も、最初は「何をさせられるのだろう?」とドキドキさせられるのだが、大麻の栽培が目的と分かって、なるほどな~と膝を打つ。
まぁ、こんな大事な仕事を移民の少女1人に任せるかな?という疑問もあるが、ラストを見る限り、労働力として使うだけ使って、いずれは殺すつもりだったのかもしれない。

そんな状況の中、ロキタと姉弟関係であったトリが動き出す。
危険を顧みないトリの行動力は逞しく感じる一方、後先を考えない子供の危うさも感じさせる。
結果的に彼の行動がロキタを死へと導いてしまうわけだが…。
また、麻薬工場の大麻を盗んで売り捌くなど、その賢さには感心する一方、倫理観が完全に欠如しているのも気になった。
こういう子が大人になったらどうなってしまうのか心配だし、そもそも、あの麻薬組織が黙ったままでいるわけもないだろう。

個人的に本作を見て一番引っ掛かったのは、主人公達から犯罪を犯す事への罪悪感や葛藤が感じられなかった事。
子供だから分からない…というエクスキューズも可能だが、だったら彼女達が麻薬を売った人間が死んでしまう…という描写を入れれば済む話だ。
子供だから犯罪が許されるというわけもなく、彼女達を素直に応援しながら見る事が出来なかった。
悲劇的な結末とはいえ、自業自得と言われれば、自業自得でもある。
むしろ、移民達に非合法とはいえ、仕事を与える麻薬組織が善人に見えてしまう部分も。
やっている事は確かに酷いのだが、その対価をしっかり払ってはいるし、フォカッチャを与えるなど、意外と面倒見が良かったりもする。

ベルギーでは実際に、移民の子供が犯罪に利用されるケースが多いそうだが、この映画を見た観客がどれだけ移民の人権に関心を持つのか?と言うと、疑問が残るところ。
むしろ、本作を見て「金の為なら何でもする移民はやっぱり危険だ!」と排斥思想に傾く人もいるのではないだろうか。
映画には多様な解釈が許されているとはいえ、それはダルデンヌ兄弟の望んだ反応ではないはず。
説明を省き、90分というタイトな時間でまとめた手腕は流石だが、本作に関しては主人公の内面を推し量る為の補助線をもっと引いた方が良かった様に思う。
移民というセンシティブなテーマを扱うのなら尚更。
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