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聖地には蜘蛛が巣を張るのfonske0114のレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.0
イランで起きる娼婦連続殺人事件。「街を浄化させる」という犯人の声明は、多くの支持を得ている。犯人は捕まるのか、正義とは何か、意思とは何か。

2000〜2001年のイランの実話をベースにした社会派サスペンスドラマ。したがってスマホもネットも出てこないのでよりサスペンスになる。ドキュメントのようでクローズアップが多いので演者の感情とともにスリリングな作品。

以下ネタバレ感想を。

サスペンスで、この作品はスマホもネットも出てこない。エンドでの2000〜2001年のイランとあって納得、そりゃデジタル機器は出てこないはずだった。

その為非常にアナログで、アリバイもガバガバの犯行なのだが、その時代背景と素人の犯行なら行き当たりばったりなことは起きるよなと思う。

早々に犯人が明かされるため、犯人とジャーナリストが接触する場面はハラハラしたが、その前に抵抗され犯人も怪我を負っていたので、「主人公は死なないよな」と思えてしまいそこまでだった。

ただその後の裁判で犯人が無罪とされるか否か、という方が寧ろメインではと思えるほど先が読めずハラハラした。
非常に胸糞だったが、あれが社会の腐敗でリアルなものを感じた。

ルフィで話題になったフィリピンの刑務所も賄賂が横行していたというし、ウクライナもEU加盟の問題点の一つは汚職が蔓延したからだという。

自分の権威や欲望を誇示し利用するその社会や政治に対し、「今回の舞台はイランだっただけ」と思わずにいられなかった。

また、娼婦をせざるを得ない貧困、その辛さを忘れるためのドラッグという負の連鎖。冒頭の被害者は身体にあざをつけ、客を一人とるたびにあざが増え、生気が吸われていく。
その事実を見て、娼婦を見下しながらも買う男は何なんだよ、と終始思っていた。「娼婦を殺す=浄化」もそうだが身売りをせざるをえない貧困、女性軽視、というテーマも「今回の舞台はイランだっただけ」と思った。

犯人の行き過ぎた正義=悪では、というのも昨今のネットを中心とした風潮としてあるし、犯人そもそもの「何も成し遂げられない自分へのもどかしさ」というのも日本でいう「無敵の人」「ジョーカー」と同様で、あの犯人だけにとどまらないはず。

この作品は、社会・政治、ジェンダー、善悪、貧困、コミュニティという部分で非常に万国に共通して訴える作品として確立されており、見応えがあった。

また終始クローズアップが多いので俳優の感情も迫るものがあり、より没入感があった。主人公のジャーナリストはバスから降りる際は赤で熱意を表し、ラストの乗る際はブルーで冷静さを表していた。

邦題タイトルは「蜘蛛=娼婦」で聖地に娼婦が巣を張るようにいる或いは女性ジャーナリストが巣を張るように事件を追う、原題「Holy Spider(聖なる蜘蛛)」は軽視される女性ジャーナリストのことなのかなと思った。

個人的にはドキュメントのようだったので、映画としてのエンタメ性はもう少し見たかったとも思った。
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