2024年42作目
間違った正義感
◆あらすじ
「街を浄化する」という犯行声明のもと、聖地マシュハドで娼婦連続殺人事件が起きた。
人々が’’蜘蛛殺し’’に恐怖するなか、一部では犯人を英雄視する声も。
そして、事件を取材しようと聖地にやってきたジャーナリストのラヒミは、とある平凡な男の狂気を垣間見る―――。
◆感想
タイトルだけ聞いたことあって、せっかくポイントあるし観ようと思った次第。
いや~思った以上にヘビーな内容びっくり…あらすじ以外の前情報を何も知らなかったからか、とんでもない作品に遭遇したわ。まず、実話を基にしているのが驚き。そして、人の内に潜む狂気と恐怖を描きつつ、イラン社会の闇をテーマにしているのもすごい。
所々脚色されているとは思うけど、実際にこんな凄惨な事件があったなんて信じられない。しかも、娼婦たちを殺した殺人鬼を英雄視していたなんて、ほんまにとんでもないな。確かに、夜な夜なクスリや体を売っている彼女たちは聖地にとって害をなす者かもしれん。一種の犯罪行為であり許されざることなのかも。だからといって、浄化なんて体の良い言葉を使って人の命を奪っていいわけがない。明らか倫理観を逸脱しているし、人としての尊厳とはって考えないのかな。何が善で何が悪なのか、サイードもそうやけど殺人鬼を英雄視している国民たちもどうかしとるわ。
けど、最後まで観て思ったのは、結局誰が悪かったんやろって話。もちろん、16人もの女性たちを手にかけたサイードは極刑に値するし卑劣そのものだけど、運命が違えばサイードじゃない人が「浄化だ!」って言ってたかもしれん。あるいは、情勢が良くなるよう政府がもっと動くべきだったのかもしれないし、そもそもそういう国民性&宗教だから起きるべくして起きた事件なのかもとも考えられる。日本ってあんまりこういうのないけど、考えれば考えるほど生々しい。
本作の面白いところは、ジャーナリストであるラヒミと犯人サイード、両方の視点から描かれていること。しかも、犯人がサイードであることがかなり序盤でわかり、加害者側らしからぬ普通の家族模様を描いているのがすごい。あと、犯人が捕まった後の展開もびっくりした。サイードや妻の心情に加え、被害者家族の心痛までも描かれていて、なかなかない演出だなと。
結局、サイードが娼婦たちを殺し続けたのは、己の人生が報われないままだったから?彼女たちの命を奪うことで、神ではなくとも’’なにか’’になろうとしていたかのかな。だとしたら、神の意志でもなんでもなく、己の性欲や邪悪な心を満たすためにやった身勝手なことでは?マジでイカれてる。だったら、自分の生活がより良くなるよう努力するべきやったんちゃんうんけ。まあ、この頃のイランではそうもいかなかったと思うけど、だからって「自分は国のために戦ったんだ!」って言いながら蜘蛛を殺すな。蜘蛛は益虫なんやぞ。たとえ、イランという国の闇に堕ちてもタイトルのように一生懸命巣を張って生きてんねん。
と、なかなか言いたいことが止まらないのだけど、それくらい主張が強い作品ってこと。
ザール・アミール=エブラヒミの演技もぜひ観てほしいです。