いわくつきの映画のリメイク作に出演することになったニッキーは、役にのめり込むにつれ、現実と映画の世界が交錯していく迷宮ミステリー。
ハリウッド女優を描いた「マルホランド・ドライブ」から5年後、更に複雑で難解な作品を放ったリンチ。
冒頭、泣きながらテレビを観ている女、その画面に映るのはウサギ人間。
なんだこれ?と笑ってしまった。いきなり意味不明のウサギさん。開始早々、ついていけるか不安になる。
映画で、ビリーと不倫するスーザン役を演じるニッキー。スーザンを演じる内に、役と同じようにデヴォンと不倫。
私生活だと思って観ていると「カット」の声で撮影なんだと気付く。撮影なのか私生活なのか、境目が解らなくなる。
そうか、ニッキーもスーザンも全てが映画の世界なんだと思った。もう面倒だからそういう事にして鑑賞。
現実世界のニッキーとデヴォン。
映画「暗い明日の空の上で」の役柄スーザンとビリー。
元になったポーランド映画「47」
ウサギ人間がいる部屋。
テレビを観ている女。
多重構造の世界が、もつれた糸のように容赦なく襲いかかる。
5つくらいのお菓子がテーブルにあり、袋をひとつ開けて口に入れ、咀嚼している間にリンチは別の袋を開ける。一つ目を飲み込まずにそれを口に入れると、また別の袋を開ける。テーブルの上はごちゃ混ぜ状態。
いくつもの世界が重なり、ねじれ、場所も時間も解らない不思議な感覚を覚える。ふわふわと奇妙な空間をさまよいながら、最後の悪あがきをする。
そうだ!多重人格の切り替わりをテレビのチャンネルで表しているんだ。
そんな解釈をあざ笑うように不気味な世界が交錯する。
小さな穴から覗く世界、ドライバー、拳銃、ダンシング・ガールズ、サーカス団、オーバーラップする映像…。
起承転結を追いかける思考回路が止まる。起承転転転転混混混狂…もうお手上げ。
ワケわからん世界が3時間も続くのに、最後まで引き込まれた。
数多くの数学者が未解決問題の証明に挑むように、多くの人がこの映画の謎解きに挑んだことだろう。