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クリスタル殺人事件のtakのレビュー・感想・評価

クリスタル殺人事件(1980年製作の映画)
3.5
アガサ・クリスティの「鏡は横にひび割れて」の映画化。「クリスタル殺人事件」との不思議な邦題をつけられた。日本公開の1981年は田中康夫の小説「なんとなく、クリスタル」が大ヒットをしていた頃。「鏡」か…光って割れるもんならクリスタルでええやん!流行ってるし!というノリがあったかどうかは知らないが、この時期続いていたクリスティ映画の邦題が「○○殺人事件」だったからオリエント急行、ナイル…と合わせる必要があったんでしょね。そんな訳で、なんとなく、クリスタル。

イギリスの田舎町に映画撮影の為にやって来た大女優マリーナと夫で映画監督のジェイソン。地元の人々との交流のためにお屋敷で開いたパーティで、参加者がカクテルに入れられた薬物で死亡する事件が起こる。町に暮らすミス・マープルはゴシップ好きで人間観察に優れたおばさん。現場にいた家政婦チェリーや事件を担当する甥スコットランドヤードのクラドック警部から聞いた話から事件の推理をしていく。

初めてテレビの映画番組で観た頃、僕はかけ出し映画ファン少年だった。そんな僕でも名前を知ってる往年のハリウッドスター共演。そんな華やかさが楽しい印象だった。それはそれでいい。だってミステリーなんだもの。謎解きとアガサ・クリスティ作品の人間模様を合わせて楽しめれば、それが一番。アンジェラ・ラズベリーはこのマープル役のイメージから、後の「ジェシカおばさんの事件簿」につながったのかな。

しかし、あれこれ映画を観てええ歳のおっさんになった今これを観ると、グッとくるところがその頃とは明らかに違う。だって、当時の僕はまだロック・ハドソンとリズが共演した「ジャイアンツ」もキム・ノバクの「めまい」も観ていない。ロック・ハドソンがエイズで亡くなるずっと前の作品だ。このキャストが揃う有り難み。このキャストだからこそ再起を賭ける女優の気持ちをすっと受け止めることができる。またハリウッドの内幕を描いた映画を観たことのある今だから、プロデューサー役のトニー・カーティスのちょっとした台詞や皮肉な言い回しも楽しい。また復帰作に選んだのが、メアリー・スチュワートとエリザベスという反目する二人の女王の物語というのも、仲の悪い二人の女優共演の舞台として面白い。

監督のガイ・ハミルトンは「007」シリーズで知られる方でもある。映画ファンは変なご縁を感じたりもする(笑)。執事を演じたチャールズ・グレイは、ハミルトン監督の「ダイヤモンドは永遠に」でボンドの宿敵ブロフェルドを演じた人物(「007は二度死ぬ」にも出演)、またエドワード・フォックスも「ネバーセイ、ネバーアゲイン」でMを演じている。無名時代のピアース・ブロスナンも出てるから探してみてね。
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