KnightsofOdessa

帰れない山のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

帰れない山(2022年製作の映画)
3.0
[イタリア、父親を透かし見るグロテスクな友情物語] 60点

2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。パオロ・コニェッティによる同名小説の映画化作品。映画化にあたって、監督二人はイタリア語を習得したらしい。1980年代、夏休みを過ごしにアルプス山麓の村にやって来た少年ピエトロは、人口140人の中で唯一の子供ブルーノと出会う。それは40年近くに及ぶ友情物語の幕開けだった…という話なのだが、表面的にはそうでも中身は全然そんなことないのが恐ろしいところ。というのも、ピエトロの興味は父親にあり、その関連として山が存在する。ブルーノは父親を思い出す触媒にすぎない。序盤に父親と一緒に登ったきり、一緒に登ることはなく、自分が拗ねて家族を蔑ろにしていた時代にブルーノ青年が息子役を代行していたことで、父親亡きあとは父親代行のような役割を担うことになるのだ。父親がピエトロに残した家をブルーノが作るという象徴的な空間は、父親としてのブルーノがいるHOMEとして機能している。それにしてもよく歩く映画だなあと思ったら、ラストで"一度訪れた山には帰れない、最初の山で失ったら残りは彷徨うしかない"と言っていて、正しく父親を失ってから彷徨い続けているのだろうと。そうすると、後半にかけてダラダラとブルーノ一家が破綻していくのを描いていたのはなんだったんだ?となるなど。まぁヒュルーニンゲンはお涙頂戴を通り越したお涙搾り取り映画『オーバー・ザ・ブルー・スカイ』を撮ってる人なので、過剰におセンチにしたがる傾向にあるのかもしれない。

『セルヴィアム』『Brother and Sister』と悩める白人アフリカに行くエンドに親しんできたわけだが、『TAR』『帰れない山』と悩める白人アジアに行くエンドも台頭してきて草。
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