Jun潤

帰れない山のJun潤のレビュー・感想・評価

帰れない山(2022年製作の映画)
3.6
2023.05.22

予告を見て気になった作品。
北イタリアのモンテ・ローザ山麓を舞台にした、ジュブナイルかつノスタルジックな作品の予感。

都会で静かに暮らしていた少年のピエトロは、両親が愛する山の中の村で夏の休暇を過ごしていた。
そこで出会った同い年の少年・ブルーノ。
最初こそぎこちなかった二人だったが、すぐに打ち解け、ピエトロはブルーノと共に山を駆け回る。
次第に父と山を登るようになり、幼いながらも叔父の手伝いで酪農の仕事をしていたブルーノも一緒に山に登るようになる。
やがてブルーノを都会の学校に通わせようとするピエトロの父だったが、ブルーノの父がブルーノを仕事に駆り出し、二人は徐々に疎遠になってゆく。
やがて時が経ち、父に反発したピエトロは都会で仕事を転々としながら暮らしていた。
しかし父の訃報をきっかけに再び山へと戻り、ブルーノと二人で、ピエトロの父が遺した山小屋を建て直していくこととなる。
少年時代と同じように山で過ごす時間は、二人の人生に大きな影響を与えていくー。

はえー、モンテ・ローザめっちゃ綺麗。
これまた『EO イーオー』とは真逆で、人間をメインに据えていながら、目を釘付けにさせる壮大な自然を描いた作品でした。

山での生き方に固執するブルーノと、様々な世界での生き方を模索するピエトロ。
大人になって尚更山での生活に執着するブルーノを諭そうとするピエトロでしたが、その行動は幼い頃の気持ちとは真逆だったのではないでしょうか。
ピエトロよりも山のことを知り、父とも山を登り、仕事もしているブルーノに対し、ピエトロは唯一勉強のことについては劣等感を持たずにいられた。
なのに父が都会の高校に通わせようとするから、自分との差がどんどんついてしまうから、だからピエトロはブルーノに山での生き方を押し付ける、というよりか手放させずにいてしまったとも受け取れる気がしました。

氷河のトレッキングでの失敗のように、過去の後悔を取り消すことはできない。
同じように、父と過ごすことができなかった時間、ブルーノと過ごすはずだった時間をピエトロは取り戻すことはできない。
ちょうどよく『東京リベンジャーズ』があるものだから、現実はこっちなんだよと引き戻された気分です。

原題及び英題の訳『8つの山』は作中で言及されていた通りヒンドゥー教における須弥山世界観。
これは上手いこと須弥山に登ったブルーノと、他の8つの山を登ったピエトロが当てはまる秀逸なタイトルでしたね。
邦題の『帰れない山』というのも、かつて同じ一番高い山にいたはずのピエトロも、8つの山を登った今となっては須弥山に登ることができないということが作中で語られていましたが、個人的には宗教観に当てはめなくても、山から帰ることができないブルーノと、山に帰ることができないピエトロと、シンプルに捉えることが出来ると思いました。
Jun潤

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