まりぃくりすてぃ

恋文のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

恋文(1953年製作の映画)
3.9
サンフランシスコ講和条約発効の翌年頃に完成。演出者(晴れがましく田中絹代監督!!!)・外野の巨匠さんたち・優秀脚本家・一流原作者………そのうちの誰が最高責任者なのかよくわからせないまま“つつましやかな総力戦”を友情出演目白押しのオールスターキャストで進めてく全体像は、ちょうど太平洋戦争っぽい? ただし、この映画は敗戦なんかしません!(そもそも敵は溝口だったの? 誰だったの? 男社会?)

とりあえず、フェミフェミな手書きのタイトルバック(切り花つき)は確実に絹代色。
でも、本編が始まってみると、変に台詞の一つ一つが耳立つ。(成瀬の過度な介入をもってしても)削り足りなかったのか、演技同士の相性の問題なのか、会話劇としての調和(反射?)がやや足りないんだ。
そんな中、弟役の道三重三さん(絹代監督にとっては反抗的で問題児だったらしいけど)が、目と目が離れてて声が独特でゲイっぽくもあって私を飽きさせなかった。
それと、空気清浄器感をふりまく香川京子さんが期待通りに素敵。彼女が店の洋服ラックをくぐったりする“かくれんぼ”が、優れて映画的。

主役の久我美子さんと森雅之さんの、自然公園での訣別のとこの美しい美しい長回しをはじめ、台詞なしで仕草や表情(特に目演技)でゆっくり語ったいくつかのシーンが、マッチョ寄り?な脚本からようやく上品に飛び立てたみたいで詩情(&やっぱり現役大女優による演出っていえる丁寧さ)溢れてて良かった。
撫でる程度にしか喧嘩バイオレンスを描かないのも、絹代監督と木下さんのそりゃ倫理感でしょう。女性同士の諍いシーンは、前半でも後半でも自由度が活き活きしてた。
脚本的には、終わりがあっけない。せっかく森さんがマッチョを取り下げるんだから、もう一回二人を真正面から向かわせたかった。ジャケットみたく。

結局、いろんな美点を含みながらも何かと何かが不調和。
ソース素材は変えずに全体をただサイレント映画として再加工してくれれば、秀逸作へ早変わりしうる。これは侮辱じゃない。素材がじつにイイ。渋谷をたっぷり感じ取れるし。