むっしゅたいやき

變臉(へんめん)/この櫂に手をそえてのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

4.3
中国、呉天明監督作品。
英題『The King of Masks』。

「変臉(へんれん)」とは四川省に伝わる伝統芸能の一つで、術者が瞬時にその着けた仮面を入れ替える技術である。
何らかのTV番組等で、観賞された方も多かろうかと思う。
正確には上記の通り、"変臉"と書いて"へんれん"と詠むのだそうであるが、本稿では邦題、それに老人の通称に齟齬が発生する為、"変面(へんめん)"との表記で統一する。

本作はその技量から『変面王』と呼ばれる孤独な老人と、孤児との交流を描いたものである。
プロットとしては故事成語にでも出て来そうな前時代的な物であるが、これが呉天明のカメラに映されるや化けるのが不思議である。
中国内陸部の湿度の高い薄明や、ゆったりと流れる大河、そこに住まう人々の貧しくも力強い生活感が、ざらついたカメラと相俟って、プロットにも現代感を齎し、自然な説得力を与えている様に思われる。

本作は呉天明が、天安門事件以降避難していた米国から帰国した後に作成された作品であるが、彼が育てた張芸謀、陳凱歌等、所謂第五世代の監督達の作風とは異なり、主張を前面に現さず、物語を淡々と映し出す事に撤している様に見受けられる。
芸術性や商業性を重視されるシネフィルには不向きであろうが、実直な『映画らしい映画』を好む人へお勧めしたい。

ラスト、向かい合って変面を繰る二人の姿が、小さな充足感と共に心に焼き付けられる作品である。
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