めがねちゃん

蜂蜜のめがねちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

蜂蜜(2010年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

『卵』『ミルク』ときて、『蜂蜜』である。我々は鳥から牛から蜂から、あるいは無数の他の生き物たちから収奪し自らの糧とする。そして自らも自然のうちに還ってゆく。そのうちの一部分に人間の物語が存し、そこに詩がありうる。

ユスフ3部作のうち、この作品は比較的ストーリーが定まった作品であった(そのこと自体はこの作品の良し悪しを左右するものではないとは思うが)。少年ユスフが飲めなかったミルクを飲み干すシーンなどは明からさまだが、しかし、この3部作全体のうちで唯一の明からさまであると言ってもよいのではないかと思うほどに、珍しい心地がした。

少年ユスフもやはり寡黙だし、授業で音読することも上手くできない。だが、彼は多くを見つめ、その内に膨大な思考の言葉を溜め込んでいるのだろう。表現する方法、それが後の詩なのだろうが、それを知らない彼は、ただ自らのうちに溜め込むしかないのである。

音楽のほぼ無いこの3部作において、しかし、静かで大胆な環境音はずっと流れ続けていた。美しき物音がこれらの映画を彩っており、それ以上は余計であるように思う。

最後までユスフという人のことは分からなかった。ただ淡々と彼の人生の一部分が描き出される。とはいえ、これらの映画自体がユスフの詩なのではないかと、私は思う。彼の言葉にならない言葉がこの映画全体を覆っている。
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