なべ

ウエスト・サイド物語のなべのレビュー・感想・評価

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)
3.1
 ウエスト・サイド物語は素晴らしいと思う。白人と移民の対立、幼稚な仲間意識、男女の意識の違いなど、1961年の(今もそうか)米国の縮図みたいな現実をロバート・ワイズがバーンスタインの名曲にのせてつくったんだから、素晴らしくないわけがない。サントラのLPも何度聴いたかわからない。指を鳴らしてダチと学校の廊下を練り歩いたこともある(オープニングのニューヨークロケは痺れる)。夜仲間を呼ぶのに指笛を鳴らしてたこともあるし、ベルトのバックルをちょいと横にずらして履いてたことも。うん、わかってるんだよ。わかっちゃいるけど、ぼくはウエスト・サイド物語が嫌いだ。
 なぜなら、ウエスト・サイド物語は、ミュージカル映画アレルギーな人の苦手ポイントがふんだんに盛り込まれているからだ。
 突然歌い出すってのもそう。歌ってる場合かって深刻なシーンで高らかに歌い上げるってのもそう。今夜逢引きする胸の高まりと、決闘に向かうグループの意気込みが同時に歌われるトゥナイトは結構好きだけどね。あそこはミュージカルだからできる手法だと興奮するよ。でも、闘志をむき出しにして歌ってるところでふと我に返って恥ずかしくなっちゃう。激昂する仲間を諌めるのに真剣な顔で歌って説得するクールとか、それがやがて群舞になり…素晴らしいけど滑稽で笑っちゃうのだ。トニーが死ぬって時に歌ってる場合かってなるし(さすがに途中で歌うのをやめるけど)、ドラマパートがシリアスな分、歌とダンスが浮いて見えるのがウエスト・サイド物語だ。
 ぼくが好きなミュージカルはゴージャスなセットでアステアやジーン・ケリーが超絶ダンスを繰り広げる夢の世界。あるいは歌とダンスが突然始まってもおかしくない設定のボブ・フォッシースタイル。歌って踊ってたらなんでもいいってミュージカル乞食、失礼、ミュージカルマニアほど寛容になれないのが悔しい。何度も観てるから、もしかしたら今回は好きになれるかもと思ったけど、やっぱり嫌いだったわ。好きなふりをしていた時期もあるけど、正直に言うよ。ぼくはウエスト・サイド物語が嫌いだ。
 ついでに言っちゃうけど、後味の悪さも嫌い。そんなカットで終わっていいのって毎回思う。今回も思った。別にバッドエンドが嫌いなわけじゃないけど、あれだけ歌って踊った物語の締めくくりにそのショットは寂しすぎるよ。なんかしょんぼりする。ニューヨークの壁の落書き風エンドロールでなんとか余韻は保たれるけどさ。
 いつかわからないけど、次に観るときもやっぱり嫌いだと思う。そんなに嫌いなら観るなって? そうなんだけど、タイミングが合えば観ちゃうのよ。この映画の良さを頭では理解してるから。白人が顔を黒塗りしてプエルトリカンでございってむき出しの差別があってもだ。スピルバーグがどんな勝算があってこれをリメイクしようと思ったのか理解できない程度には本作の良さを理解しているつもりだ。
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