かーくんとしょー

ウエスト・サイド物語のかーくんとしょーのレビュー・感想・評価

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)
4.9
多くを語るまでもない、ミュージカル映画界の不朽の名作。
近年のミュージカル映画はダンス要素が少なく歌に頼りがちだが、本作を観ると、身体を最大限に大きく使って表現することの素晴らしさを体感できる。

初めて観たのは高校の音楽の授業だった。
授業としてはレナード・バーンスタインの名曲の数々を聴くのが主だったのだが、思春期の心にはやはり悲恋のストーリーの方が響いたのも懐かしい。
(曲は言うまでもなく最高!)

アメリカのポーランド系やんちゃグループとプエルトリコ系やんちゃグループの確執の中で翻弄される、ミュージカル版「ロミオとジュリエット」(以下「ロミオ」)。
ただし、「ロミオ」で二人の仲を引き裂くのは政治派閥と家族間の問題だったのが、本作ではそこが現代化およびアメリカナイズされているのがポイント。

トニーとマリアは敵対グループの関係者なのだが、それはつまり民族間の対立でもある。
一見「ロミオ」の政治派閥の対立を小さくしただけだが、この二つのグループは共にアメリカでは差別される側、というのが本作のオリジナリティー。
つまり、このグループ闘争に勝とうが負けようが、彼らが社会的に認められるようなことはない、報われない戦いの物語になっている。

しかも、口(歌)や拳で始まった喧嘩はやがてナイフに変わり、最後にそれを終らせるのはアメリカのマジョリティーの化身とでもいうべき〈銃〉。
結局のところ、生きようが死のうがトニーもマリアもジェット団もシャーク団もアメリカ社会から迫害され、規定される側でしか存在し得ないということだろう。

「ロミオ」という誰もが知る傑作を下敷きに、そこに新たにアメリカの光と闇を描き込むことで、本家とは違った〈アメリカ式〉の悲恋の定型を作り上げたことが素晴らしい。
ミュージカル映画としてパフォーマンス面で優れているだけでなく、映画史やアメリカ文化史における歴史的価値を備えた作品だと思う。

written by K.
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