もしも、伊藤潤二に弟子入りしたモーリス・センダックが「進撃の巨人」を描いたら。
奇っ怪で濃密な描き込みに開いた口が気持ちよく塞がらない、邪悪な絵画の裏側の世界。SFとグロテスクと、そしてきっちりユーモアとが細部の設定隅々まで同居しているところが素敵だと思う。
こういうのを体験させていただくと、なんだろう「天然」には敵わへんなあという気がしてくる。フランスとチェコの合作とのことで、なんとなく納得できる感じもあったり(混ぜると”奇”険)
タイトルの「ファンタスティック〜」は英題に基づくようで、原題は劇中にも登場する「野生の惑星」。
ドラーグ人と彼らに手前勝手に飼育・駆除される人間の関係を人間と動物(自然)とのそれに当て嵌めてみたり、「瞑想」中だけ無防備になるドラーグ人の姿をスマホやタブレットに耽溺する現代人になぞらえてみたり…といった「かしこい」観方だっていくらでもあるだろうけれど、ここはおとなしくこの完成された世界観に降伏していたいと思わせられる。
BGMもなんか変というか、当時(1973年)まだ原初黎明期だったフュージョンの前身的なバンドサウンドになっていて、ヨーロピアンプログレやジャズロックの香りが色濃い。ベースの音にやがて80年代へ繋がる艶めきがあったり、フルートや女性コーラス、歪んだワウ・ギターがウワモノとしてこの時代ならではのレトロスペーシー感を演出している。