あらすじ:終活とは、エゴを捨て去り、愛だけを遺す行為。
演劇学校の教師バンジャマンは、39歳にして膵臓癌にかかり余命一年前後と宣告された。そこで、名医と名高いエデのもとを訪れたが…というお話。
ハワイに、『ホ・オポノポノ』という伝統的な行動療法がある。現実が辛くて仕方ない人に、うってつけだという。やり方は、四つの言葉を発するだけ。気持ちを込める必要はなく、ただ言う。「ごめんなさい」、「どうか赦してください」、「愛しています」、「ありがとう」と。
いわゆるおまじないだが、おまじないがメンタルに効くのはエビデンスのある話。この四つの台詞はじんわりと脳に浸透し、当人のエゴを浮き彫りにして、謝罪と利他的行動への変容を促すのだと思う。
妻子を苦しめたバンジャマンのエゴも、息子を縛ったクリスタルのエゴも、心からの謝罪が氷解させ、水になって綺麗に流れた。そうしてやっと、患者と遺族は、悔いの無いエンディングを迎えられる。愛する人に伝える言葉は、確かにホ・オポノポノでいいんだろう。
患者の情緒に引っ張られず、最後まで淡々と冷静なドクター。患者と一緒に泣き笑い、最後は天使になって寄り添うナース。これぞドクターとナースの役割分担だと思うし、決して逆になってはいけない。見事なコンビだった。
ややドラマチック過ぎるとは言え、医療者視点にも患者視点にもリアリティがあり、掘り下げも深い。と思って作品情報を調べてみたら、なんとエデ役のガブリエル・サラは現役の緩和ケア医師で、彼が監督に映画化の話を持ちかけたとのこと。というわけで、医療者には是非観てほしい一本。
悲劇と向き合ってきた男が自身の悲劇と向き合う、という脚本が切なさを増幅させていた。生徒への指導内容がそのまま自分にかえってくる、静かで苛烈な内省の時間が印象的だった。