たく

窓辺にてのたくのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
3.8
互いに秘めた感情を抱える3組の男女の群像劇で、今泉作品の会話の自然さにはいつもながら恐れ入る。この会話の長回し中心の作りに、映画というよりは良質な舞台劇を観せられたような印象を持った。

フリーライターの市川が作家の久保と不思議な親交を持っていく話を軸に、妻の浮気を知りながら何もできない市川の葛藤が描かれていく。久保の著書「ラ・フランス」で何でも手に入れる一方で手に入れた物を簡単に手放してしまう主人公が象徴的に出てきて、彼に興味を引かれた市川が妻の浮気を知ったときにショックを受けず自分の中に人を好きになる感情が乏しいんじゃないかと思い悩む。自分もそういうところがあるので、なんだか共感した。

市川が小説を書くのをやめてることや、紗衣と有坂がそれぞれ浮気相手から寝るのをやめようと言われたり、カワナベが歳をとってから色恋をやめてしまったり、「何かをやめること」が象徴的に扱われたのも「ラ・フランス」の主人公に繋がるね。ラストで市川がパフェのオーダー数を1つに減らしたのは、たぶん電話をしに外に出た優二がこのままよりを戻しに行くから戻ってこないと思ったんだろうね。

最近の今泉作品に多めだったコメディ要素は影を潜めてだけど、久保が市川を彼氏に合わせた時の気まずさは可笑しかった。彼女を演じた玉城ティナのツンとした中に人懐っこさを滲ませる演技が今まで観た彼女の出演作の中で最高。オーラを消した稲垣吾郎の自然体な感じも良かったね。「え?」って聞き返す場面が多いのがちょっと気になったけど。志田未来はついこないだまで少女と思ってたら、いつのまに一般人の主婦を堂々と演じててびっくりした。
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