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窓辺にてのmのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
4.8
これは今泉さんの映画で一番好きかも。愛情と創作その両方の、各々の有り様の違いだったり変化についての右往左往と思索。個人的に分かる感覚もあったな。一つの映画の中に中年の感覚も若者の感覚もあって、そして『普通』とは違う特殊な感情とそれについての葛藤もあり、人間の感情の多種多様さと幅広さをよく描いている映画だった。良いです。


序盤に玉城ティナが初登場する記者会見シーンで、玉城さんと稲垣吾郎の間にどうやって関係性が生まれるのかをカメラがイマジナリーラインを超えるタイミングとその後のカメラ位置の変化で的確に映画的に表現していて痺れた。シンプルだけど極めて効果的な映画の話術。あそこであぁこれは大丈夫だなと思った。今まで今泉監督の映画でこういう映画的な技法にこだわってた事って無かったと思う(監督本人もカット割に興味無いしアップは嫌いと公言してるし)。撮影は「ドライブ・マイ・カー」の四宮秀俊氏、たぶん四宮氏の主導かな。流石です。


「街の上で」のライブハウスのシーンが好きなんだけど、今作のタクシーとパチンコ屋の素敵なシーンにはあのライブハウスのシーンにあった良さが更に発展して息づいている感じがある。しかも今回は巡り巡って本筋に絡んでくる。

するりと始まる修羅場はスリリングで、しかしこういう風にしか本心を言えない人間の切実さと哀しみもちゃんとある。良かったな。



この映画の最大の美点は出てる俳優さんが全員得してるという事。これは本当に良い事だと思う。

俳優としての稲垣吾郎には三池崇史版「十三人の刺客」での日本映画史に残る稀代の悪役(冗談抜きで本当に日本映画史に残る役なのでこの映画を未見の方は是非観て下さい凄いよ)・斉韶様という絶対的正解のハマり役が既に存在していて、正直もうこれ以上にハマる役は無いだろうと思っていたんだけど、今回もう一つの正解が遂に見つかったという感じがした。
稲垣さんの持ってる独特の感じと、その裏にある人間味。温度が無いようである。人間味が無いようである。とっつきにくそうで意外とそんな事はないかもしれない。でも『普通』とはやっぱりちょっと違って、それを本人も気にしている。当て書きの完璧な成功。見事です。稲垣さんもそれに応えて伸び伸びと豊かに演じていて凄く良かった。

稲垣さんにシンパシーを抱いて不思議な関係性を築く玉城ティナもまた素晴らしかった。「惡の華」での俳優開眼以降(「惡の華」での玉城さんは鬼気迫っていてマジで素晴らしいので未見の方は是非観て下さい)、良い演技をずっとしてきていた彼女もこれがまたもう一つの代表作になりそうな予感。ナチュラルさで今泉映画との相性の良さを見せつつ、同時にフィクショナルな存在感の強さと頑なさを見せる。スクリーンに映える役者だと思う。これからも期待。
今泉監督が『女子高生作家』という属性に変なレッテルを貼ったりいやらしい視線を向けたりしていないのが良い。

不倫をしている中村ゆりもまた凄く良かった。愛情と罪悪感とが同居した感じ、大人の女性の複雑さを体現していて印象的。

それから志田未来はこれが彼女のベストアクトだと思う。

「街の上で」から引き続き出演の若葉竜也、穂志もえかも変わらず好演。「退屈な日々にさようならを」の主演俳優が顔を見せるのも嬉しい。



とはいえやっぱりちょっと長過ぎるというのはあるけど、個人的には今泉さんの商業映画では一番良いのではと思う。




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