ロックウェルアイズ

窓辺にてのロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
4.1
フリーライターの市川は、編集者である妻が担当の売れっ子小説家と浮気しているのを知っている。
しかし、彼はそのことに対して特に嫉妬や怒りが湧くこともなく、心が動かないことこそがショックで、妻に話せずにいた。
そんな時、高校生作家の久保留亜に出会い、彼女の小説に興味を持った市川は彼女と交流を深めていく。

今泉監督の複雑恋愛シリーズ。
タイトルからしてなんとなく『街の上で』の続編的な感じかと思っていたら全くそんなことはなかった。
妻の浮気にショックを受けない男の話。
今回は普段以上に大人な雰囲気を身に纏っている。
純喫茶で市川が水の入ったコップを手の上にかざし、屈折して手の上でキラキラと光る陽の光を見つめる、という随分と粋なシーンから始まる。
夫婦や恋人、愛人と言った形には収まらない、愛というものについて。
恋愛偏差値10の人間としてはなかなか難しかったが、彼の感情分からなくもない。
彼が妻の浮気にショックを受けないことが劇中では全否定されていたけれど、それこそが彼なりの愛の形なのではないか。
感情の乏しさが愛の乏しさというわけではないと思う。

市川が惹かれた久保留亜の「大切なものを手にした瞬間手放す」という考え方。
完璧なんか求めなくていい。
欠けている方が幸せなのかもしれない。
パフェがパーフェクトじゃないように。
大当たりしたパチンコを手放した市川の姿から、この映画が伝えたいメッセージがなんとなく分かったような気がした。が、やっぱりよく分からない。
「(大人になりきっていない)僕には(まだ)必要のない作品だった(かもしれない)」

キャストは今泉映画には珍しい顔も多かったが、流石実力派の俳優だと感じた。
脇役は安定な感じ。
倉悠貴は市川と対照的な役を好演していたし、『街の上で』ファンとしては若葉竜也と穂志もえかの絡みが最高に嬉しい。

♫あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ……
観賞後、無性に小説が書きたくなった。
文学的で濃厚な143分。
ただ、143分はこの手の映画にしては少々長い。
ゆったりと時間が流れていて…とも言えるけど、もう少し簡潔な方が好きだったかな。