たく

ザ・メニューのたくのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.8
天才シェフが提供する究極のコース料理を通して芸術家の創作に伴う狂気を描くホラーな密室劇で、全く予約の取れない高級店が本当に美味しいのかどうか、素人目からしたら大したことないんじゃないかっていう図式を寓話的に描いてて妙に清々しかった。このご時世なのでどうしても「カルト宗教の支配の手からいかに逃れるか」という話にも感じちゃった。登場する男が全員クソだったね。

孤島の高級レストランでのそれぞれの客の群像劇が「ボイリンク・ポイント」みたく描かれる。一品提供するたびにシェフが一拍で強引に客の注目を求めるのが彼の支配欲を表してて、料理スタッフ全員が軍隊みたくシェフの号令に付き従ってたり、テイラーが目の前で理不尽なことが起きてるのに全く動じず平然と料理を食べ続けるのが異様で、それらがカルト信者みたいで怖かった。

至高のメニューからだんだんホラー展開になって行き、シェフが命懸けで提供してきた料理を金持ちの道楽に消費されてることに対するシェフの復讐みたいな感じになって行く。中国人のホールの女性が冒頭から本性を隠してるのが怖くて、終盤の女の嫉妬はつくづく恐ろしい。

店側が客の素性を完璧に把握した上でメニューを提供するという方針に全く反するマーゴをシェフが執着していくのがマーゴに対する恋心のようにも見えて、マーゴが何で最後にああなったかっていうのは、彼女があの一品(「南国料理人」「スペンサー」を連想)をオーダーしたことで、シェフが長年苦しんできた偽りの名声を唯一見抜いてくれたことに対する感謝だったのかな。アニャ・テイラー・ジョイの周囲を意に介さない強さに彼女の魅力が全開してた。
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