カツマ

ザ・メニューのカツマのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.7
美食の旅は至高の境地。それは厚顔強欲、ブルジョワたちの満潮の無い舌舐めずり。そんな俗物たちに相応しいメニューがあるとしたら、極端な結論としてこんな奇怪な夜が待っていた。暴走に次ぐ暴走、逃走の果ての諦念。いつしか横たわっていたのは正体不明の狂気の形。行く当てのない情熱の残り香は、哀しいほどに皮肉な味をもたらした。

今作はアニャ・テイラー=ジョイとレイフ・ファインズ、という旬の女優と大御所俳優が共演した異色過ぎるメッセージ型先行スリラーである。ある孤島のレストランへ極上の超豪華メニューを堪能しに訪れた、ブルジョワたちと一人の庶民が巻き込まれる波乱の夜。序盤の豪華絢爛な雰囲気から転落し、様々なメニューを突き付けられる金持ちたちの災厄とは何か?様々なメッセージを映像で発信してきたアダム・マッケイが製作に入っている点でも、メッセージを観客に伝えたいというパッションをヒシヒシと感じる作品だ。

〜あらすじ〜

世界的にも高名なシェフ、ジュリアン・スローヴィクのフルコースを楽しむ孤島ツアー。その出発地点となる船着場で、マーゴとタイラーのカップルは他の参加者たちを観察していた。その中には有名な映画俳優や料理評論家などが含まれ、シェフの料理を堪能するに相応しい億万長者ばかりが集っており、皆、その日の晩餐に期待を膨らませながら船に乗り込んだ。
島に到着した面々はレストランの支配人エルサに導かれ、島を巡り、そして、その日の会場へと到着した。そこで待っていたのはカリスマ性をビシビシと纏わせたシェフのジュリアンと料理人たち。カメラ撮影は禁止されていたものの、ジュリアンのコース料理を目の前にタイラーはお構いなしにカメラを撮り、他の参加者たちも徐々に談笑しながらその日の夜を楽しみ始めた。だが、そんな余興も一品目まで。二品目から何やら不穏なメニューが登場し始めて・・。

〜見どころと感想〜

終わってみると非常に簡潔。メッセージが分かりやすく、とにかく現代社会の上流階級への皮肉がたっぷりと込められている作品である。ただ、メッセージ性が先行し過ぎていて、登場人物の行動原理にツッコミどころが多過ぎる点がやや惜しい。そのせいで劇中の恐怖に迫真性がなく、スリラーとしての中身が薄い。ただ、伝えたいことの内容としてはとても真摯で好感が持てたので、製作側の意図はしっかりと受け取ることができた。

今作で唯一魅力的なキャラクターを演じたのが売れっ子のアニャ・テイラー=ジョイである。彼女の吸い込まれそうな瞳の力は今作でも健在で、圧倒的な存在感で物語の中心に立つ。そして、今作に分厚い箔を付けてくれたのが名優レイフ・ファインズ。彼の佇まいが異様に怖いため、そういう意味では彼が今作のスリラー要素を担っていたと言えるだろう。また、相変わらず変な役で登場のニコラス・ホルトや、ダーレン・アロノフスキーの新作『ザ・ホエール』にもキャスティングされているホン・チャウなど、演技力の高い役者たちが本作の芯を強くしていると感じた。

これは管理される側による管理している(と勘違いしている)側への反逆。反逆側は料理人以外にも映画人にも音楽家にも当てはまるだろう。創造者へのリスペクトを欠いてはならない、というのはどの業界でも同じこと。だけれども、現実は批評家や上流階級の傲慢な感想や文章が跋扈しているのが現実だ。こうしてフィルマークスという媒体でレビューを書くことも、恐らく劇中のある人物への皮肉として描かれている、のかもしれなかった。

〜あとがき〜

上流階級への激烈なカウンターパンチといったところでしょうか。スパイスが効きまくりのメニューに舌をチリチリと熱くさせられるような作品でした。

ただ、ストーリーは整合性を欠いていてイマイチでしたね。伝えたいメッセージが強すぎてスリラーとしての役割をレイフ・ファインズに押し付け過ぎてしまったかも。とりあえずアニャが最高だったのと、やたらと観終わった後にチーズバーガーが食べたくなる作品でした。
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