合唱部で部長を務める男子中学生で、コンクール後にヤクザの祭林組で若頭を張る成田狂児から半ば強引にカラオケへと誘われた岡聡実。近くある組のカラオケ大会で罰を回避をしようと必死な狂児から助言を請われる彼が、変声期に戸惑いを覚える中で、何を言ってもX JAPANの『紅』を歌うと聞かない狂児と育む関係性を描いた青春映画です。
同人誌で発表した『夢中さ、きみに。』が目に止まってデビューし、その後も多くの話題作を書き上げた和山やまの同名漫画を出版と同じくKADOKAWAが映画化した作品で、監督に山下敦弘、脚本に野木亜紀子と実績のあるふたりを迎えて制作した綾野剛と齋藤潤が織り成す物語が観客に受け入れられて興収と共に原作の売上をも伸ばしました。
原作が百頁強とコンパクトで無理な矯正なしに臨みますが、漫画だから許された絵空事感を払拭とはいかず、映画用に導入されたいくつかの要素も空振り気味と脚本としては些か安直に感じる所はあります。それでも山下敦弘らしい、「うまく」歌いたいでなく「好き」を歌いたいという内なる情熱をフィーチャーして心に訴えかける一作です。