キービジュアルや予告編からして明確だったけど、改めて振り返るとTV版『モノノ怪』とは大分デザインが異なる。TV版の“薬売り”は狐のように秀麗な顔立ちに非人間的な雰囲気があったけれど、本作の彼の外見は何処か人間らしい丸みがあって比較的正統派の美形と化している。ビジュアルの変化は他のキャラクターに関しても顕著で、モダンな日本画のような癖の強さが目立っていたTV版と比べると幾らかマンガ的で分かりやすい容貌になっている。映像面でも明らかに彩度が高めになっていて、極彩色の演出が終始に渡って景気良く繰り広げられる。元々エピソードごとに美術設定が顕著に切り替わるアニメだったので、映画向けに絢爛な色彩になったのも理解できる。
TV版とのビジュアル的な違いは大きいとはいえ、それでも『モノノ怪』としてのテイストは保たれている。和を基調にした独創的でオリエンタルな世界観、人間の情念をテーマにした和風怪奇譚としての作風など、原典の骨子が再構築・再解釈されたうえで踏襲されている。それと個人的に『モノノ怪』はかなり女性の物語だと思っているので、本作が大奥を舞台に女中の悲劇と救済を題材にしたのも納得があった。抽象的かつアート的な描写こそ目立つのものの、「システム化された“人間性の棄却”」「それによって生まれた悲劇」「悲劇の再演を通じた救済と浄化」という大筋自体は明確なので別に話は難しくない。
色鮮やかな映像美に関してはやはり凄まじく、非現実的な美術設定に唸らされるばかり。洒落た雨の描写なんかはとても好き。大胆な色彩感覚や幻想的な画面構図などに基づく怒涛のイメージの数々には度肝を抜かれ、それらが怪奇的演出と結びついた時の疾走感は圧巻である。“渦巻き顔ののっぺらぼう”として描かれる大奥のモブなどの異様かつ怪談じみた描写が良い。和紙のようなテクスチャがTV版から引用されているのも地味に嬉しい(絵的な質感は異なるとはいえ)。またキャラデザなどの差異も相俟って、神谷浩史の薬売りも意外にしっくり来る。あと『怪 〜ayakashi〜』の小田島様を彷彿とさせるキャラクターがいたのが何だか嬉しかった。おかめちゃんも加世ちゃんの面影があったけど、悠木碧の演技も相俟って些か可愛く描かれ過ぎている印象も否めなかった。
色彩も含めて画面の情報量が常に多いのに、序盤からカットの切り替わりが激しいのは気になった。映画向けの演出というものあるんだろうけど、TV版と比較して全体的に映像が足早で慌ただしい気がする。絵面自体は美術的な魅力に溢れているのに、それを咀嚼するための余韻や行間に乏しくなっている。更にはそこに登場人物の雑多な分散ぶりや迅速なテンポ感などの要素も絡み合うので、そう難しくない筈の筋書きを追うのに必要以上の労力を使わされる印象。また大筋の明確さに対し、細部の描写の曖昧さや抽象性に関しては派手な映像演出で煙に巻かれている感も強い。どうしても画面の忙しさや前衛性が先行しているのもあり、大奥という題材やそこに渦巻く人間模様・悲劇性などの掘り下げは思ったより簡素な印象。
中盤においては薬売りのアクションを伴った怪奇的演出が激しいカットの切り替わり・劇的な映像美などと噛み合っていたので、その辺りのドライブ感は良かった。「モノノ怪が……来る!!」辺りの一連のシーンなどは物語の疾走感と映像の疾走感が共鳴しててスリリングな高揚感に溢れていた。とはいえ終盤になると視覚的な情報の忙しさが演出のドライブ感を上回り、ちょっと食傷気味になる。ハイパー薬売りさんは格好良いけど、彼の戦闘シーンは良くも悪くも臨界点を突破している。
櫻井孝宏の降板やスタッフ絡みの諸々など不安要素はあったし、美術設定はともかく編集や演出でも思うところは多々あった。それでも『モノノ怪』の復活作としては何だかんだで十分に楽しめたので、以後の展開にも期待したくなる。まぁ自分はTV版が非常に好きだったので、幾らか贔屓目に見てしまっている部分もあるかも。次回作ではTV版のエピソード同様、演出面の趣向を大胆に切り替えてほしくもある。