Eyesworth

野いちごのEyesworthのレビュー・感想・評価

野いちご(1957年製作の映画)
4.7
【動かない針】

北欧の巨匠イングマール・ベルイマン監督の1957年の作品。

〈あらすじ〉
年老いた教授・イサクが長年の研究を認められ、名誉博士の称号を贈られることに。ストックホルムから授与式が行われるルンドへの道中、イサクはこれまでの自らの人生を振り返るとともに、ヒッチハイカーの少女など、さまざまな人との出会いを経験していく。

〈所感〉
過去と現代、夢と現実が入り交じった作品。夢の中の時計のない針、デスマスクのような顔の無い男が不気味。過去は永遠に静止しているのだ。人が追憶する時、過去の鏡を覗き込む時、葉っぱの上の一粒の雫が地面へと滴り落ちるようにポツっと時間が動き出す。本作はイサクの受賞式の一日だけにスポットを当てた慌ただしいロードムービーのような映画だが、年老いたイサクの過去の功績による喜悦と今の若い人達と対比した時の言い難い悲哀、失われたものへと後悔が窺える。振り替えると一本線の人生でも、そこには上がり下がり、曲がりくねりがあって曲線的なものである。難解で哲学的な作品が多いベルイマン監督のイメージとは異なる幻想的・叙情的な世界観が見られて不思議なメロディに彩られた心地良さがあった。
Eyesworth

Eyesworth