あーさん

野いちごのあーさんのレビュー・感想・評価

野いちご(1957年製作の映画)
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先延ばしにするのはやめよう!シリーズ その2

夏の遊び、秋のソナタに続いてベルイマン作品はこれで3作目。
昨年のベルイマン生誕100年を機に、比較的難解ではないものから観始めたからか相性は良いようで、今作はフォロワーさんからのオススメもあり、やっと鑑賞にこぎつけた。

シュールとも言える個性的作風はもう了解済みなので、違和感なく観れた。
面白いし、深い。そして、やはり構図が美しい。。

主人公が78歳男性医師ということで"感情移入できるだろうか?"と危惧したが、そういう向きの作品ではなかった。

これまでの医師としての功績が認められ、ルンド大学で名誉医学博士号を授けられることになった主人公イーサク。モノローグから自分が気難しいとの自覚はあるようだ。
妻を早くに亡くし、医師となった一人息子エーヴァルドも独立して別々に暮らす。
40年来の住み込みの家政婦アグダが、彼の身の回りの世話をしている。

明日はいよいよ戴帽の儀、という夜。
物語はそこから始まる。。

不快な摩訶不思議夢のシーンは何を意味するのだろうか?
人付き合いを疎んで来たこれまでのイーサクの生き方を、彼は無意識にどこかで後悔しているのだろうか?
そして、"孤独"は罰なのだろうか?

イーサク×アグダ(家政婦)のやりとりが楽しい。
これくらい言い返せる家政婦なら
長年仕えていてもおかしくない。
この二人のセリフの応酬がお気に入り。

イーサク×マリアン(義理の娘)のやりとりは、なかなか痛くて辛辣な言葉が出てくる。エゴイストと言われたイーサク。
マリアンには一見気を遣っていて、直接的な嫌味は言っていないように思えるが、過去の発言や行いを持ち出され、夫のエーヴァルドとの関係が悪くなったのもあなたのせいだと責められる。

時々現れる両親、おじ、おば、いとこら親族との回想シーン。
野いちごは、過ぎ去った子ども時代の日々の象徴か。

婚約者だったサーラ(従姉妹)との苦い思い出。
サーラと結婚したのはイーサクではなく、シーグフリド(弟)だった。。

息子エーヴァルドとの関係は良いと思っていたのだが、、
息子の嫁から思ってもみなかった言葉を聞く。

従姉妹のサーラにそっくりの女学生サーラ& そのボーイフレンド・アンデシュ(医者の卵)& ヴィクトル(神学生)達とのドライブ&珍道中。
若い人との触れ合いはイーサクの心を解きほぐし、柔らかくする。

神はいるのか?いないのか?
ベルイマンお得意のヤツだ。

車のアクシデントから、サーラ達に加えてイーサクの車に同乗することになったアルマン&ベーリット夫婦。ずっと罵り合っている夫婦にマリアンは耐えきれず、途中で降りてもらうことに。。
ケンカばかりの夫婦のもとに生まれた子は、自分をも愛せなくなる。マリアンは自分の子にはそうなってほしくないと思っていた。子どもを持つ自信がないエーヴァルド。
わかるなぁ。。私もそうだった。

イーサクの96歳の母親もキョーレツな印象を残す。うーん、、この親にして。。

イーサクの亡き妻カーリンは、実はベルイマンの母と同じ名前。どちらも幸せではなかったのだろうか。
ベルイマン自身は次男なので、もしかすると主人公よりも弟の方に共感していたのかも。女性に奔放な人だったようだし。。

私が一番グッときたのは、イーサクの戴帽の儀を見た女学生サーラ達が、イーサクの為にお祝いの歌を歌うシーン。
なんか、急に涙が溢れてきて。。
この若い人達がいるおかげで、作品全体が重くなりすぎず、良いアクセントになっていたと思う。
息子世代には素直になれなくても、孫世代には素直になれるってことかな。

悪夢のシーンはなかなかリアルだったけれど、人生とはそんなに甘いものではなく、失敗や後悔、痛みを伴うものだと言うこともできるし、逆に想い合ったり、理解しようと努めることで関係が修復されることもあるとベルイマンに言われているようだった。

ベルイマン中期の作品なので、確執のあった牧師の父親とも和解しつつあった頃だろうか?
おそらく父に見立てたイーサクのエゴイストぶりを批判しながらも、徹底的な悪者にしていない所が、今の自分にはしっくりきた。

歳はとるものだなぁ、、とやはり70代の実家で闘病中の父とイーサクを重ねながら、思う。
仕事の虫、口下手で真面目、ちょっとイタい所が似ているかも笑

そして、もっと歳を重ねて人生を振り返った時に、一体自分はどんな風に思うのだろうか?
何となく想像してみたくなった。。

愚かでもあり、弱くもあり、優しくもあり、逞しくもあり、、

人間ほど愛おしいものはないと、最近思ったりしている。


今作の重厚さを決定付けたのは、イーサクを演じたスウェーデンのサイレント映画の巨匠でもあるヴィクトル・シェーストレムの顔!!
さすが、ベルイマンが惚れ込んだだけあるなぁ。。

アグダ、マリアン、サーラ役の女優陣も素晴らしく、その審美眼はやはり恐るべしベルイマン監督、、と唸らされた。

一度観ただけでは、感性が追いつかない!
何度も何度も、繰り返し観たい作品。。

20世紀最大の巨匠であり、数多の著名な監督に影響を与えたと言われるベルイマン作品、これからもっと観ていきたい。
(ベルイマン生誕100年の時に購入したパンフレットがとても役に立った!多少の知識はあった方が良いかも)
あーさん

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