ラウぺ

ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You Allのラウぺのレビュー・感想・評価

4.0
スロバキアの写真家ユライ・ムラヴェツ Jr.はユーロマイダン後の2015年4月、キーフから分離派(=親ロシア派)の支配地域のドネツクに向かう。行先でウクライナ人、ドネツクでの親ロシア派住民の双方に取材し、現地で暮らすさまざまな人々の生の声を記録したドキュメンタリー。

映画は2016年の製作で、既に6年が経過していますが、現在に続くウクライナ東部でのウクライナ―ロシア間の戦争が現地の人々にどのような変化をもたらしたのかを浮き彫りにしていきます。
ウクライナ人ではない“旧共産圏市民”としての立場が、ソ連というタガが外れた東欧諸国に広く共通する雰囲気をこの地域にも見出す様子が興味深いところ。

親ロシア派=分離主義者による傀儡政権であるドネツク人民共和国内では、この時点でウクライナに帰属する住民は殆ど退去しており、残された住民の大半は女性と年配者という感じ。
この中で、「ナチ式敬礼をしたり、ハーケンクロイツをつけたり」「プーチンに助けて欲しい」「ウクライナ軍は学校も見境なく攻撃を加えた」といった発言をする住民が登場し、現地での親ロシア系住民がどのような認識を持っているのかがダイレクトに伝わり、非常に興味深く見ることができます。
“ウクライナ=ナチス”というロシアの主張は「アゾフ連隊」などがウクライナ軍に編入される以前に民兵組織だった頃の、ごく一部の極右系軍事組織の存在を極限まで拡大解釈したプロパガンダであることはあまねく知られた世界一般の認識といってよいものですが、支配者が特定の意図をもって流布する偏った情報がそれに感化されやすい人々が受容するとどうなるか?といった問題を非常に端的に表した反応といえるでしょう。

その一方で、「戦闘に参加しなかった」という鉱夫の男性の話を聞くと、ロシア・ウクライナの双方に親戚や友人がおり、それらの人々と戦争なんかできない、という。
多民族や異教徒同士が一つの地域に混在する状況は、パレスチナや旧ユーゴスラヴィア、インドなど、世界中のあらゆるところに存在し、紛争が起きる前は両者が普通に共存していた、という話はどの地域にも聞かれる話。
特にロシア・ウクライナに関してはつい30年ほど前までは同じ「ソ連」という連邦国家の国民であったことを考えれば、両者の対立に心情的に拒否感を持つ人々がいることは非常に良く理解できます。

「もう少しおつむがあれば戦争なんかないよ!」と叫ぶ老婆の心の底からの叫びが胸に刺さるのでした。

劇中でもムラヴェツ Jr.の撮影した写真がその場面ごとに挿入され、写真のもつ静的な描写の背後にあるこうした住人の叫びが、いわば二層のレイヤーを通して訴えかけてくるのでした。
パンフレットは判型がやや小ぶりながら、そのモノクロ写真が豊富に掲載され、ミニ写真集といった風情。
後から見返してみても、劇中に感じた印象をそのままに伝えてきます。
ラウぺ

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