MasaichiYaguchi

ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You AllのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.7
スロバキアの写真家ユライ・ムラベツ・Jr.は、ドネツク側とウクライナ側の戦場に参加した人、しなかった人、スパイと間違えられて拘束された人等の証言を集めて当時の記憶を辿ったこのドキュメンタリーは、紛争の本質や人が戦争を繰り返す理由を問い質していく。
2013年、ウクライナで大衆デモにより親ロシア派のヤヌコービチ大統領が追放となり、親欧米派による政権が樹立する。
しかし、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州では、親ロシア派の分離主義勢力とウクライナ政府の武力衝突に発展し、分離主義勢力によって14年4月にドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立が宣言される。
2015年4月、分離主義勢力が支配する東部のドネツクに向かったスロバキアの写真家ユライ・ムラベツ・Jr.は、様々な人々に取材を敢行し、声を拾い集めた。 
その後の2016年2月、入国禁止ジャーナリストとして登録されたことでドネツクへ入れなくなったムラベツは、ウクライナ支配下の村や紛争の最前線マリウポリでウクライナ側の人びとへの取材を開始する。
このドキュメンタリーを観ると、2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナへの全面侵攻以前から、ウクライナとロシアの間で絶えず紛争や小競合いが起きていて、今回の侵攻に繋がっていることが改めて分かる。
ただ本作は、ウクライナやロシアに片寄ること無く、フラットなスタンスで今に繋がる背景や、それに巻き込まれた市民の悲劇を色濃く浮き彫りにしている。