ブラックユーモアホフマン

バーバリアンのブラックユーモアホフマンのネタバレレビュー・内容・結末

バーバリアン(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

婆婆リアンじゃねぇか。

まず本筋と関係ないことなんですけどアメリカの懐中電灯ってそんなに点いたり消えたりするんですか?笑 ホラー映画で都合のいい(登場人物にとっては都合の悪い)タイミングでいっつも点滅する。あまりにいつまでも繰り返されるんで、もしかしてアメリカでは日常においてもあるあるなのか?と考え方を変えてみた。実際に懐中電灯があんなに点滅するの、日本で生きてて見たことないんだけど。

それはさておき。
予想をどんどん裏切る展開。脚本や編集は終始ユーモラスで笑える。ちゃんと怖いシーンもあるけど、ずっと笑える。だからジャンルはコメディとホラーの中間という感じもする。

この感覚はジョーダン・ピールにも似ている。特に二度目の回想パートというんだろうか、あの家の本当の家主が誰なのかを見せるところ。デトロイトが嘘みたいに綺麗だった頃の。スクリーンサイズが変わる小細工もしてて。『アス』や『NOPE』の昔のやたら明るいテレビ番組の画面が不気味に見える、あの。(もちろんMCU『ワンダヴィジョン』も想起した。)

女性が女性であるだけで感じている居心地の悪さを表現している点は、黒人が黒人であるだけで感じている居心地の悪さを表現している『ゲット・アウト』にも発想として似ている。

突如配信限定で現れた良質サスペンスという点でも似てるけど、Amazon Primeの『ヴァスト・オブ・ナイト』にもやや似た情緒を感じた。そちらは本当に無名キャスト無名スタッフの正体不明感が強くて、こちらは有名キャストなのでそこまで正体不明感はないけど。

ビル君のキャスティングが絶妙なのは、普通に好青年なんだけどコイツ、言ってもペニーワイズだからなぁと思うと油断ならない感じがあるところ笑 なんかあるんじゃないかと思って見てると、しかしそれも逆に裏切られる。普通にただの好青年だった、という裏切り方。

そしてジャスティン・ロング。『Mr.タスク』とか改めてちゃんと観てみようと思った。すごくよかった。実質、中盤の主人公。恐らく彼は映画監督か何かで、自分の作品に出た若手女優に性行為を強要したことを告発されて、その新作もお蔵入りになり、自身のキャリアも終わりそうという状況。にも関わらず、反省するどころか告発した女優に腹を立て、自分のしたことと自分の抱える問題に真摯に向き合おうとせず何とかならないかと往生際悪く逃げ回る。最近、嫌というほど聞く話。

近年のこういう問題を扱った映画は、被害女性を主人公にするものが圧倒的に多く、加害男性を主人公にしたものはまだ少ない気がする。まさに『MEN』にはなかった一捻りがこちらにはあった。ジャンル映画の定石の現代化が上手い。

何度か物語が仕切り直されるたびに、まるで違う映画が始まったかのようになるけれど、ビル君と予約が被る第一部も、ジャスティン・ロングの第二部も、サイコスリラーな第三部も、根底のテーマで繋がっている。

AJはそうやって社会的なテーマを背負いながらもジャスティン・ロングのおかげで魅力的なキャラクターになっている。最後の最後までクソ野郎でしたけど、クソ野郎こそ映画のキャラクターとしては魅力的で。現実世界で最悪なやつをフィクションの世界でもただ嫌なやつとして描くだけではしょうがなくて。

婆婆リアンにも最後には人間味を感じた。彼女も女性だから。悲劇的な存在で、可哀想でもある。という描き方だったと思う。その辺は面白かったけど、正直デザインはそんなに新しくないな、どっかで見たことあるな、と思った。

あ、家の中を探っていくとどんどん奥があって……という話なので『ミラベルと魔法だらけの家』みたいだとも思いました!笑
あと忌まわしい本当に最悪なビデオの中身は見せない、という演出は『蛇の道』みたいだなとも。

【一番好きなシーン】
メジャーで面積はかりまくるところ。爆笑。