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ブロンドのtanayukiのレビュー・感想・評価

ブロンド(2022年製作の映画)
3.6
ネトフリで配信されるやいなや物議を醸してるらしい本作だが、伝記映画は、たとえそれがドキュメンタリー作品と銘打ってたとしても、何を見せ、何を見せないかを選ぶだけでも、作り手の恣意的な解釈が入る余地がいくらでもあるわけで、そのこと自体を批判するのは、はっきり言って筋が悪い。ただそれが、マリリン・モンローほどのアイコンになると、誰もが「自分が見たいモンロー像」というものを持っていて、それと著しく異なる切り口で切り取られるのは受け入れがたい、という気持ちになってしまう人がいるのはしかたがない(その意味で、本編にも登場するJFKも同じくらいさまざまなイメージが流布しているので、あの描き方に納得しない人も大勢いるはずだ)。

本作に対する批判については、こちらの記事でチェック。→批判殺到のマリリン・モンロー映画『ブロンド』、どこまでが真実? | カルチャー | ELLE [エル デジタル]https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/g41508091/blonde-marilyn-monroe-true-story-explained-review-221008/

だから、史実と違うという批判は、そういう声もあるのね、くらいに聞いておけばいいのだけど(だいたい、その史実とやらは、誰がどう確定するのか)、たしかにこれは問題かもと感じたのは、こちらの記事にある「生まれる前の(結果的に生まれなかった) 胎児に「今度は殺さないで」と言わせるシーン。中絶はいまアメリカで最もホットな政治イシューのひとつで、母親の人権と(まだ生まれていない)胎児の生命のどちらを優先するかという選択を、母親に一方的に押しつけるような描写は、少なくとも個人の意思で表明すべき事柄で、本人の同意なく、勝手に死者に仮託して描いていいものではないはずだ。

→大炎上中のマリリン・モンロー映画、Netflix『ブロンド』の胎児シーンが失敗と言える理由 https://www.esquire.com/jp/entertainment/movies/a41540970/blonde-talking-foetus-scene/

そうした点を踏まえたうえで、作品としてちょっと突き放して見てみれば、みなさんおっしゃるように、アナ・デ・アルマの演技はすばらしい。前後につながりのない細切れのシーンの連続でも、モンローの苦悩が痛いほど伝わってくる。だが、それ以上のものではなかった、残念ながら。

「ゼロからやり直したい。今度は違う世界で生きたいの。ハリウッドから離れて……。私の夢は、チェーホフ劇。NYに住みたい。演技を学ぶの。本格的に。映画の撮影は細切れよ。カットだらけ。ジグソーパズルと同じ。でもピースを選ぶのは監督。私は舞台に立ち、毎晩幕が下りるまでその役を生きたいの」

前後の文脈もなく、突然泣いたり笑ったり怒ったりすることを、それも何通りものバリエーションで演じ分けることを求められる(映画の)役者という仕事の過酷さと、それを実際にやってのける才能に、嫉妬する。

△2022/10/10 ネトフリ鑑賞。スコア3.6
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