リトアニア・フランス・ベルギーの3カ国で製作されたというSF映画で、映画好きな人達からの前評判がとても高く、予告篇も興味をひきつける内容だったので、期待しつつ鑑賞した。
生態系が破壊されてしまった地球において、富裕層は地上を離れ「シタデル」という都市に暮らし、そうではない人々は遺伝子変化を経た危険な植物達が自生する地上で限りある資源を奪い合うような暮らしをしているという物語の舞台設定が、とても魅力的。
脚本と監督を担ったクリスティーナ・ブオジーテとブルーノ・サンペルは、宮崎駿の「風の谷のナウシカ」やルネ・ラルー (カルトSFアニメーションといわれる「ファンタスティック・プラネット」を手掛けた) から大きく影響を受けたと公式に発言しているが、安易で表層的な剽窃ではなくマッシュアップとリスペクトがあり、監督独自の退廃的な世界観の構築に成功している。
脚本については、序盤〜中盤〜終盤とそれなりに展開はあるものの、ハリウッド系のSF映画と同じような期待値で鑑賞するとやや起伏に欠ける部分は否めない。
人造生命や未来的なテクノロジー等も出てくるが、詳しい部分には言及されないので、良くも悪くも想像の余地が残る。
何より、中心的に描きたい部分がそこではないという意図は理解できつつも、主人公達とは違う世界で暮らしているという富裕層および彼らが暮らすといわれている「シタデル」についてほとんど全くといっていいほど画で描かれない (映画冒頭の導入文章で語られるのみ) というところは、もうほんの少しだけでも見せてくれたら嬉しかったのになと感じてしまった。
結末についても、ポジティブにいえば大きな余韻が残るといえるが、今から面白くなりそうなのに、ここで終わっちゃうのか… という読後感でもある。
おそらくかなり予算が限られていたことがあって、注力するシーンやモチーフを絞りに絞り込んだのだろうとは想像しながら、実撮映像のトーンや奥行き感を重視し、VFXの使いどころを最小限かつ効果的なところに限定する演出がとても丁寧かつ上手で、SFでありながらもアート系映画が持つような美しい佇まいのある作品だった。
https://www.shojitaniguchi.com/cinemareview