足拭き猫

灼熱の魂 デジタル・リマスター版の足拭き猫のレビュー・感想・評価

4.1
ドゥニ・ヴェルヌーヴがSFのイメージだったので、姉が数学の教師ということで知的な冒険の旅に出るのかなぁ、などと勝手に思ってしまっていた。1970年代のレバノンの内戦を「生き抜いた」母の過去を探る旅。結末は衝撃的。たまたま知り合いも一緒に観ていたのだが、彼女は途中でもしかしたら・・・と思ったらしい。自分は全く予想もしていなかった展開だったため、完全に言葉を失った。

今年初めにキアロスタミの作品で観た、黄白の石とオリーブの木々の風景が、同じ国ではないがことごとく破壊されており、好きな映画の世界がボロボロになっていた。また、物理的に壊すことだけでなく、魂の殺人である拷問やレイプも起きる。のんびりと暮らしている私が日本にいる一方で、思想や宗教の元に地獄のような戦争が行われている。

1+1が0ではなく、1だったことがせめてもの救いか。憎しみではなく、愛が勝つと伝えたかった母親。

言葉が通じない相手とのコミュニケーション、全体的に色数が少ないことや、心をかき乱された姉弟がプールで泳ぐ時の水の冷たい色と水しぶきなどが他の作品のドゥニ・ヴェルヌーヴを想起させた。
難民キャンプがテントでないのは知らなかった。