いなだ

映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)のいなだのレビュー・感想・評価

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「馬鹿げたことが悪いことだと、どうして考えるの?何世紀もの間、人間の愚かさも賢さと同じくらい大切にして育ててやれば、愚かさからもひょっとすると何か貴重なものが生まれて来るかもしれないわ。」
-ザミャーチン(川端香男里訳)『われら』岩波文庫、p198

パーフェクトな人間になれる理想郷<パラダピア>という予告と、出木杉がトマス・モアの『ユートピア』を紹介する冒頭から、これは……と思ったら案の定ディストピアものだった。
暴力的じゃないジャイアン、意地悪をしないスネ夫、0点をとらないのび太? 人間は間違いを犯す生き物で、歴史から争いが消えてなくなることはない。“完璧”を目指すためには人間の心をなくすしかない、そう考えたかつて社会の落伍者であった科学者は、仮初の理想郷を生み出した。

意外と今までなかったタイプの悪役だと思った、最初はパラダピアの理想を共有していたのび太(たち)と、次第に価値観が衝突していく展開は楽しめた。ただ、子ども向け作品ということもあり、キャラクターたちの主張により悪役側の理想が一方的に破壊されるというのは、主義を押し付け返しているような側面も孕んでいるのかなと思った。でもチャップリンが言うように、すべての映画は何かしらのプロパガンダなので……。

作画が綺麗だし、盛り上がる感動シーンもある。行動が自己犠牲的なのは分かりやすさに振っているという感じだが。服装やゲストキャラ、パラダピアのワクワクするようなデザインで良かった。
エンドロールのソーニャのシーンでうるっときちゃった〜。
いなだ

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