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エデンより彼方にのmasayaanのレビュー・感想・評価

エデンより彼方に(2002年製作の映画)
4.6
目くるめく華麗なデクパージュで誘われる、2002年ハリウッドへの旅。

場面の描写に必要なショットだけが適度な「省略」とともに重ねられていく様はいかにも古典的なのだけど、一方では、緩やかなフェードアウトや繊細なディゾルヴでショットは滑らかに繋げられており、大変に心地よい。あるいは、アイラインにあった筈のカメラがゆったりと上昇し、屋根の高さから庭に佇むキャシーを捉えるショットの豪華さや、残業中の夫に夜食を届けんとするシーンでは、家を出るシーンとビルに入るシーンがシームレスに繋げられる。その時の、「良き妻」を全うするキャシーの晴れがましい表情が素晴らしい。

とは言え、その「良き妻としての晴れがましい表情」が、最良の人生における最良の表情ではないことも、彼女は知っている。というより、それが過去形になってしまうのが、この映画の基本的なスジである。それでも微笑み、時代を恨むことなく、なんとか家族を守ろうとするキャシーの中にも、「同性愛」に対する拭い難い嫌悪や羞恥があり、一方では「人種差別」に抗うことでリベラルを気取る自尊心とがアンバランスに同居しているのだ。

「愛すべき人を愛することが許されない」という超古典的メロドラマは、このような題材を危うく抱えながら、ツッコミを許す間もない華麗なショットの連鎖で物語を語り終えるだろう。「1950年代における中流の模範的アメリカ家庭の崩壊」を描きつつ、サム・メンデスの『アメリカン・ビューティー』に対して「これが映画だ」と言わんばかりである。
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