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SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

3.5
地味だけど余計な脚色がなく実直だからこそリアルに響く社会派映画。MeTooムーブメントのきっかけとなったNYタイムズの記事に関する担当記者の手記を映画化した作品。先日レビューしたMeToo映画の「ウーマン・トーキング 私たちの選択」と同じPlan Bの制作です。

ハラスメントや性被害に関してなぜそれが隠蔽され表に出てこないのかというところに焦点が当たっており、性暴力問題そのものの核心を掘り下げることからは少し外れているのですが、これも問題の大事な一つの側面であることに変わりはありません。

ヒット映画を次々に世に送り出したミラマックスのハーヴェイ・ワインスタイン。彼のとんでもない性暴力の被害者、目撃者、そして関係者。それぞれ立場は異なっても誰もが公に声を上げたいし、上げるべきだと強く思いながら、どうしても"on the record"では語れない想像を絶する葛藤に胸が痛むと同時に加害側とハリウッドの強大な力に恐ろしさを感じずにはいられません。

当然この題材の主人公となるべきはこうした悩み恐れ苦しみながらも最後には記事に実名での協力を決意したこれら被害者、目撃者および関係者たちに他ならない。そのそこに至る葛藤は相当なものであっただろうし、彼らのそうした姿をセンセーショナルに映し出せば映画としても当然盛り上がるはず。しかしこの映画は記者の手記であり、あくまで彼ら記者が見聞きして知っている事実の範囲だけが描かれます。

こうした見ていないものを勝手に想像して描くことを絶対にしない本作の姿勢には、ジャーナリズムのあるべき姿が感じられるし、だからこそ一見ストーリーに盛り上がりがなくても描かれる全てに真実味があることで観ている側の心ににゾワゾワと迫ってくるものがありました。

この告発の物語は、今まで表に出なかった問題を世間にはっきり認めさせた大きな功績である一方、副題のとおり「その名を暴いた」のは、今後こういったことが起こる原因を究明し対策を施し将来の被害をなくしていく取り組みの始めの一歩に過ぎません。彼らの勇気を無駄にしないために、社会の誰しもが当事者意識を持って向き合っていかなくてはならないと感じました。
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