矢吹健を称える会

宮松と山下の矢吹健を称える会のレビュー・感想・評価

宮松と山下(2022年製作の映画)
3.6
 最初に電通のロゴ。なに電通が製作、そんな映画わしゃ嫌だぞいと、本編はじまるまえにもう否定姿勢になってしまったのだが、いや、よく考えられた内容で実に良かった。そしたら監督としてクレジットされた名に「佐藤雅彦」とあり、電通で佐藤雅彦といったらあの人だが、さすがに同姓同名の別人だろうと思ったら、本人でした。最近は「5月」という事務所を立ち上げて、映画製作を意欲的にやっているとのこと。すごいなー、感服しました。

 序盤の時代劇や『ソナチネ』パロディがよく似ているのだが、でもそういう「映画好きです」映画には決してならず、地味だがきっちりしたショットを連ねるなかで、サスペンスを構築している。最初の撮影シーンが終わった後、主人公がロープウェイ管理事務所で働いていることがわかる――サスペンス、「宙吊り」を文字通り体現した仕事――のだが、そのモーター音がやたらと迫力がある。こういう音響も、本作後半の不穏さに寄与していると思う。

 「シャツインしてる香川照之が出る映画はアタリ」というジンクスは皆さんご存じでしょうけれども、今回も表情筋レベルで演技しててすごかった。ラストの煙草! しかしそれと同じくらい良かったのが中越典子で、こんな美しい女優がいたのだなあと驚かされると同時に、年齢不相応に幼くも見えるけど、疲れても見えるという絶妙な雰囲気をまとっていて、これがたまらんのです。「過去」描写の曖昧さも良いし、それらが導くラスト、香川との切り返しが素晴らしい。
 ただ、最後の台詞は不要と思うが。