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熊は、いない/ノー・ベアーズのsonozyのレビュー・感想・評価

4.5
公開時、収監されていたジャファル・パナヒ監督の新作。
ヴェネツィア映画祭 特別審査員賞

パナヒ監督が本人役で出演し、トルコ国境に近いイランの小さな村のガンバーという男の家に滞在しながら、トルコにいるチームにリモートで指示をしながら映画を撮影しているという設定。

その映画はザラとバクティアというカップルが偽造パスポートを手に入れ、長年の希望だった国からの脱出を図ろうとする物語。
だが、パナヒのいる村の通信環境が悪く現地と連絡が取れなくなり、やむなく近所の子供たちなどをカメラで撮り始める。

結婚式に向かうというガンバーから、新郎と新婦が川で足を洗うという儀式の話を聞き、彼にカメラを渡し、動画撮影を依頼する。

一週間ほど経ったある日、村の男3人が訪れ、村の不思議な風習を話し、パナヒがカメラで撮影したはずの、ある男女の写真が欲しいと言いだす。
そんな写真は撮っていないと否定するパナヒだが、村人たちは信じない・・

軟禁状態で村でもほぼ部屋にいるパナヒ監督が、助監督からの国境超え(密入国)の誘いを受けつつ、トルコの撮影現場のカップル(ザラとバクティア)と、村の掟を破り駆け落ちを目論むカップル(GozalとSoldooz)という二組のカップル(を通して伝えるイランの社会問題)に巻き込まれていく、フィクションとリアルが混在したような世界。

タイトル『No Bears』は、夜道や国境近辺でパナヒが「クマが出るから気をつけて・・というのは脅し文句で、クマなど出ませんよ。」と言われるシーンが出てきますが、クマは出ないが、(イランには)それ以上に恐ろしいものがいるというニュアンスでしょうか。

『人生タクシー』の頃の可笑しみ要素はほぼ感じられず、当局と戦い続けているパナヒの様々な感情が染み込んだような表情が印象的です。
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