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バルド、偽りの記録と一握りの真実のbennoのレビュー・感想・評価

4.8
冒頭…息を切らしながら荒野をジャンプする影…荒れ果てた大地を大きく上下します…何かを掴もうと…でも掴みきれない…はやる気持ち…。

監督は『バードマン』『レヴェナント』のアレバンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ…彼の自叙伝的なノスタルジックコメディ…。

撮影監督は『セブン』『愛、アムール』のダリウス・コンジです。

主人公シルベリオ・ガマは著名なジャーナリスト兼ドキュメンタリー映画の監督…。アメリカの有名なジャーナリスト賞をメキシコ人として初めて受賞し、それをきっかけにメキシコへ凱旋帰国…。

しかし彼は夢と現実…過去と現在を行き来します…。

前半…困惑が先行しましたが、徐々に慣れ…良くも悪くもとんでもない映画!! …魅力的なショットに好奇心が刺激されまくりです…ストーリーテリングよりもテクニック、魅せ方の監督さんなのだと痛感しました。

幻想的なシーンからいきなりスラップスティックのような言葉の洪水…私的には洗練されたクストリッツァ…。

出産シーン…1度生まれるも、押し戻され…そうかと思えば…せくーすのシーンでは女性のアソコから赤ちゃんの顔が…

何ともシュール…ただこれは夢の世界…実際、赤ちゃん(マテオ)を死産…その悲しみが拭いされないのです…。

また、音響の拘りも凄まじく、大勢が入り乱れるダンスホールのシーン…大音響の、Let’s dance! David Bowieのアカペラバージョン…魂が震えるとはこのこと…。

そしてシルベリオと妻ルシアが家の中で追いかけっこ…彼がルシアの名前を呼びながら探し回ります…すると彼女の声が四方八方から…一瞬私も振り向きそうに…。


アメリカで成功し、生まれ故郷の誰もが絶賛すると思いきや…友人たちからは「メキシコから逃げたお前なんてクソだ!! 」と言われ…ついでに息子からはメヒカーノともアメリカンとも言えない身分をディスられます…。

そんな主人公の過去に対する忘れ難い後悔や苦悩に向き合う旅路…まさにタイトル…『バルド』…。

『バルド』(Bardo) とは…映画の中で一度だけ出てきますが…"中陰"…死者の今世と後生の中間の生存状態…わかりやすく幽体離脱のような状態…。

成功が私の最大の失敗だった…。

偽りの記憶から見える一握りの真実…人生はままならない…。

後悔に満ちた『バルド』ですが、そんな人生にも…『ハッカニブンノイチ』のように「あなたがいなくなったら寂しい」……と囁く監督の人間讃歌を感じます。

筋だったもの…ラショナルなスイッチをオフにして観る作品です…。


thanks to ; torumanさ〰︎ん* ੈ✩‧₊˚
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