「イカとクジラ」「フランシス・ハ」「マリッジ・ストーリー」のノア・バームバック監督作。グレタ・ガーウィグの旦那さん。ドン・デリーロ原作の同名小説を映画化。
年始早々コロナの陽性反応(ほぼ無症状)の隔離状態に陥ったので、大人しくお家で映画鑑賞。これが2023年1本目。
ヒトラー研究が専門の大学教授ジャック(アダム・ドライバー)は、列車事故による化学物質漏れを経験してから、死の恐怖に取り憑かれるように。そして、妻のバベット(グレタ・ガーウィグ)は、怪しげな錠剤の乗用者となっていた—— 。
いや〜、全編通じて胡散臭くて素晴らしい。胡散臭さに満ちている。
アダム・ドライバーよ。
お腹周りどうしたのよ。
リアルに役作りで太ったのか、肉襦袢なのか、とにかく彼のでっぷりとしたお腹周りは+10歳の加齢効果をもたらし、見事な中年っぷりに惚れ惚れする。
そんな彼が演じるジャックが語るヒトラー論。ジャックとドン・チードル演じるマレーが語るエルヴィス論。絶妙な掛け合いで語られるヒトラーとエルヴィスの共通点。実に胡散臭い!!
蘊蓄(うんちく)ばかりを語り合うジャックとバベットの子供達。偏差値は高そうなのに、会話が噛み合っていそうで絶妙に噛み合っていない。彼らが織りなす独特な空気感は好きだなぁ。
バベットのルックスは舞台となる1980年代半ばのアメリカを象徴する、キツめのソバージュ。中盤までグレタだと気付かないぐらいのハマりっぷり。
「死の気配は日常に溢れている」
キャッチコピーが示すように、前半は漏れ出た化学物質が。後半はバベットがハマる薬物が、共に死の気配を想起させる。
空を覆う巨大な黒い雲も、
ジャックが見る悪夢も、
バベットが薬に見出した希望も、
全ては死の気配がもたらす産物。
「訳がわからない」という論評も多く見かけるが、その訳のわからなさと胡散臭さこそがこの作品の面白さ。
得体の知れぬ死の恐怖にも、終盤ではきちんと夫婦で向き合う訳で、物語としてはきちんと帰結している。
修道女は言う。
「私達の仕事は誰も信じない事を信じる事」「信じるフリをしないと世界は崩壊する」
宗教をも相手取って死に打ち克とうとする心意気。
エンドロールで、スーパーマーケットを舞台に、色鮮やかな物質を手にコンテンポラリーダンスに興じる演者達。
物質主義や資本主義への強烈なアンチテーゼとも取れるエンドロールの映像にすっかり魅入ってしまった。カオスだけど!!
作品としては、ホント訳がわからない。
だって、僕ら誰1人生きる事も死ぬ事も、確固たる答えを見つけきれていないんだから。でも、僕は割と好き。