daiyuuki

ちひろさんのdaiyuukiのレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
4.8
ちひろ(有村架純)は、風俗嬢の仕事を辞めて、今は海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働いている。元・風俗嬢であることを隠そうとせず、ひょうひょうと生きるちひろ。
彼女は、自分のことを色目で見る若い男たちも、ホームレスのおじいさんも、子どもも動物も、誰に対しても分け隔てなく接する。
そんなちひろの元に吸い寄せられるかのように、孤独を抱えている人々が集まる。
厳格な家族に息苦しさを覚え、学校の友達とも隔たりを感じる女子高生・オカジ(豊嶋花)。
シングルマザーのヒトミ(佐久間由依)の元で、母親の愛情に飢える小学生・マコト(嶋田鉄太)。
父親との確執を抱え続け、過去の父子関係に苦悩する青年・谷口(若葉竜也)。
ちひろは、そんな彼らとご飯を食べ、言葉をかけ、それぞれがそれぞれの孤独と向き合い前に進んで行けるよう、時に優しく、時に強く、背中を押していく。
そしてちひろ自身も、幼い頃の家族との関係から、孤独を抱えたまま生きている。
母親の死、勤務していた風俗店の元店長・内海(リリー・フランキー)や風俗嬢時代からの親友のバジル(van)との再会、入院している弁当屋の店長の妻・多恵(風吹ジュン)との交流……。
揺れ動く日々の中、この街での出会いを通して、自らの孤独と向き合い、ちひろもまた少しずつ変わっていく。
週刊漫画誌『Eleganceイブ』(秋田書店刊)で連載された同名の漫画を原作に、主演・有村架純&監督・今泉力哉で映画化。

元風俗嬢の過去を隠さず、興味本位な男たちの色眼鏡にも、パートのおばさんの陰口にも、気にせず気まぐれな子猫のように誰にも期待せずに、自らの寂しさに惹かれる人々と触れ合いを重ねていく中で、自分が触媒になり侘しさを抱える人々を繋げていくちひろと、自分たち親の理想にガチガチに縛られている厳格な家族とアニメを通じた友達付き合いに息苦しさを感じている女子高生オカジや母親の愛に飢えている小学生マコトや廃校を居場所にしてる不登校生べっちん(長澤樹)や父との葛藤を抱えた谷口やホームレス(鈴木慶一)との交流の中で、それぞれが自分の縛られている学校の友人関係や「いい子でいなければ」という思い込みやひとり親家庭で育つ中での強がりなどからちひろさんの言葉に背中を押されて解き放たれていく人々のゆるやかな交流と葛藤。
学校や家庭に閉じ込められていた人々が、ちひろさんをきっかけに出会いゆるやかな絆を結んでいく擬似家族または擬似兄弟姉妹のようなユルい関係。
その中で浮かび上がる、父のような内海や母のような多恵や風俗嬢時代からの親友のバジルとの絆でも癒やしがたいちひろさんの孤独と孤独でいる時間を大事にする生き方。
社会が、押し付けてくる性別の役割や記号に縛られない忖度しないちひろさんに、解放されていくような今泉力哉監督作品ならではの人間愛と美味しい食べ物にほっこりして、有村架純や豊嶋花や風吹ジュンなどの女優陣のアンサンブルがステキなヒューマンドラマ映画。
「去る者は追わず、来る者は拒まず」
daiyuuki

daiyuuki